「初恋っていつ?」
























桃色三角形























「初恋?」


「うん。いつだった?」



久し振りの授業を終え、
スザクも珍しく軍務が無いとのことで、ルルーシュに誘われた夕食。
ナナリーも交えての夕食はスザクに久方ぶりの安らぎを与えていた。





「今日リヴァルと話しててさ。コイバナ?」


「何がコイバナだ・・・そんなこと話してる暇があったら少しでも勉強しろ。
そのうち補習にもついていけなくなるぞ」


「うっ・・・ちゃ、ちゃんと勉強もしてるよ・・・うん・・・」


「ほぅ・・・どの口がそれを言うんだ?この間の物理のテストだって」


「わぁ!ルルーシュッ!ナナリーの前で!!」






そう、今はまだ夕食中。当然ナナリーも一緒なのだ。

なのにルルーシュってば・・・






「まぁ、スザクさん。テスト大丈夫だったんですか?やっぱり軍務とかでお忙しいから・・・」




うっ・・・ナナリーの心配が痛い。

ナナリーはルルーシュをずっと見てきてるから、正直、自分の補習が出席日数によるものじゃなくて成績によるものだということはナナリーには絶対知られたくない。



ルルーシュが平均と比べてずば抜けて頭が良いということは知っているだろうけど・・・



初対面で馬鹿丸出しな言動を与えてしまった身で、この上更に馬鹿を証明したくはない。


なんだか、当時のルルーシュにすら勝てる気がしないのは気のせいということにしておこう。





「まぁ、スザクも軍務で忙しいだろうしな。
時間がある時なら見てやらんこともないぞ?勉強」


「・・・ルルーシュの部屋で?二人きり?」


「ん?あぁ・・・なんか問題でもあるのか?」


「・・・・ううん」



二人きりかぁ・・・それはいいかも・・・。



机に教科書を並べて二人で机を挟んで・・・あれ?でもルルーシュの机は壁に面してるから、教えてもらう時は横に並ぶよね・・・じゃあ、弾みで肩とか触れ合っちゃったりして・・・むしろ、ルルーシュは話す時はじっと相手の目を見て話すから、至近距離で見つめ合っちゃったりもして・・・それだけでもドキドキなのにその上更に手とかも触れ合っちゃったりしたりなんかして!

・・・だ、駄目だ!そんなことになったら僕はっ・・・!





「ルルーシュっ!!」


「な、なんだ?!」



勢いがつき過ぎて驚かしちゃったみたいだ。
びくっとしてるルルも可愛い。



「ルルーシュの初恋の話だよ」


「なんだ・・・まだそんなことを考えていたのか」


「そんなことじゃないよ!大事なことだよ!」




君に片思いしてる僕にとっては、とは言えない。

ルルーシュは恋愛系には疎いし、いきなり迫っても逆効果だ。

(流されてくれそうな気もするけど・・・)

何も知らない振りを装いながら外堀を埋めつつ、
怯えさせないようにうまくやらないと。

なんせ7年来の想いなのだ。なんとしても手に入れたいではないか。
そのためには色々と下準備が必要だ。

まずは初恋の相手を聞き出して・・・
うまくすれば、好みのタイプも分かる。
ふわふわしてる人が好きってことは知ってるんだけど・・・。
それって男にも該当するのかな?
まぁ僕に対する態度を見ているとあながち外れってわけでもないと思うんだけど・・・。


とにかく今は初恋の相手だな、とつらつら考えていると
ナナリーがくすくすと笑いだした。




「ナナリー?どうかしたのかい?」


「くすくす・・・いいえ、なんでもありませんわ、お兄様。お兄様の初恋の相手を考えていたらなんだかおかしくて・・・」


「ナナリー知ってるの?!ルルーシュの初恋の相手!」


「はい。もちろんです。
伊達にお兄様と一緒だったわけではないんですよ?」




と言って、ナナリーは可愛く笑った。

が、僕にとってはそれどころじゃない。




「教えて!!」


「スザク!?」


「どうしましょう?」


「ナナリー!?」


「ふふ・・・お兄様もこう言ってますし。ヒントだけ」









"スザクさんもよく知っている方ですよ。"











僕の知っている人・・・?








「・・・っスザク!ナナリー!!」

「ふふ・・・ここまでですね。後は自分で考えてくださいね」

















+++









「僕の知ってる人・・・かぁ」



昨夜の夕食の時のナナリーの台詞が頭の中をグルグルと回っている。




ナナリーが咲世子さんに連れられて自室に戻って行ったのを
切っ掛けにお開きになった夕食会。



僕は今日の軍務のために
ルルーシュの部屋に泊まることなく自室に帰った。



本音を言えば、もう少しルルーシュと一緒にいたかったが仕方が無い。
なんせ、今日は神聖ブリタニア帝国が第三皇女ユーフェミアの直々のお誘いなのだ。
間違っても彼女の騎士である僕に断われる話じゃない。

いや、別に誘いに不満があるわけでもないんだけど…





なんたってユーフェミアのお茶会にはあるスペシャルな特典がついてくるのだから。



初めてユフィのお茶会に誘われた時はそれは驚いた…。




皇族であるユフィと茶の席を同じくするということ以前に、特派でのランスロットの稼動実験も終わって、さぁ帰るかという時にほとんど拉致も同然に連れて来られたからだ。勿論何の説明も無しに。しかも待っていたのはいつになく真剣な眼差しをした主。つい、自分が何か取り返しのつかない過ちを犯してしまっていよいよ首を切られるのではないかと慌てて胸を探ってしまった…結果思い付くことは多々あったわけだが――主にルルーシュ絡み。あの時は本当に生きた心地がしなかった。 あぁでもそれより、

ユフィといるとコーネリアの目が気になって仕方ないのだ。



実をいうと僕はユフィよりも総督に対する後ろめたさの方が多かったりする。いや、後ろめたさというよりも恐怖に近い。とにもかくにも秘密事の多いこの身。父親についてのことくらいなら、まぁバレたって大したお咎めもないだろうけど・・・なんてったってコーネリア総督と言えばあの迫力だ。無駄にあるあの威圧感には、高貴な幼馴染のおかげで耐性はついていたものの、幼馴染は基本的には僕に甘い。よって、僕以外の誰かにその威圧感を発揮するところを見たことはあっても、僕自身にそれが向けられることはなかったのだ。だから総督の手加減一切無しの皇族オーラを浴びた時はちょっと・・・本気でビビッてしまった。正直に言って・・・




「かなり苦手なんだよね・・・」



思わずため息が出てしまう。

聞くところによると、総督は大層なルルーシュ贔屓だったらしい。
よもや・・・




実は、あなたの弟さんが生きていて、僕と同じ学校に通っていて、おまけに僕はその弟さんに7年前から想いを寄せているばかりか、今も虎視眈々と恋人の座を狙っているんです。




「間違っても言えない・・・絶対言えない、言えないぞ」



あの血筋の下の兄弟姉妹達に対する執着を甘くみてはいけない。


バレた暁には、両想いならともかく、片思いの現状じゃルルーシュと引き離されて二度と目の届かないところに隔離されるのがオチだ…ルルーシュの助力も期待できない。むしろ僕が首になることを喜ぶかもしれない。あれで心配性な幼馴染みは今も僕が軍にいることを快くは思っていないはずだから…あぁ、なんだか嫌な汗が出てきたなぁ・・・なんかさっきから悪寒もするし・・・幻覚まで見えるや・・・ピンクの・・・





「何が言えないのですか?」

「うっわぁ!!?なっ何?!ゆゆゆゆゆ、ユフィ?!本物?!」



邪まなことを今まさに考えていたところへ、突如現れた当人の片割れに(軍人としてどうかとも思うが)驚きを隠せない。というかそれ以前に、皇女様がこんなところにほいほい来ていていいはずがない。ここは特派のロッカールームなのだ。それも男子用の。




僕、着替え中なんだけど・・・




そんな心の声は当然ユーフェミアには通じない。


というか、護衛はどうしたんだ護衛は。




・・・・・・お忍びか!


・・・・・・可哀相に。よもや天下のブリタニアの皇女様がこんな錆びれた部署のロッカールーム、それも男子用にいるとはつゆにも思わないに違いない。まぁ、ターゲットを見失う護衛も護衛だと思うから自業自得ってとこか。



「はい、本物です。ユは一つで結構ですよ?」



「はぁ・・・あの、どうしてこんな所まで?」



「あら、今日はお茶会のお約束をしていたではありませんか。準備をして待っていらしたのに、スザクがいつまで経っても来ないから迎えに来ちゃいました」



「いつまで経ってもって・・・まだ約束の時間まで2時間ありますよね・・・?」


僕の見間違いでなければ。


つい、ロッカールーム備付の時計を確認してしまった。
待たせると色々うるさいので、いつもかなりの余裕を持って向かうことにしている。
うん、ここから向かってもまだ十分な時間がある。
何故わざわざ・・・



「待ち切れなかったんです」



「・・・・・・・・・・・・・・」



つい頭を押さえてしまった・・・。2時間も余分に見てまだ足りないんですか。なんだか日に日に時間が早まってる気がする。もういっそこれからは5時間前行動をしてやろうか。マナーなんか知ったことか。・・・駄目だ。なんだか本気で喜びそうな気がする。しかも無駄に良い笑顔だ。なんですか、その、やり遂げたって顔は・・・。

これが僕に早く会いたくてという意味での行動だったらまだ(少しは!)可愛げがあったのかもしれない。だが、そんな可愛らしい理由じゃないことを十二分に知っているからこそ余計に疲労感が自分をおそう。やっぱりお茶会の定期開催は見合わせた方がいいのかもしれない。でもあれがなぁと、半ば現実逃避のように考えながら、横目にご機嫌の我が主を窺ってみる。


こうやって見ると、ユフィは無駄にふわふわしている。
まぁ、女の子らしいよね。顔も上位ランクだ。スタイルも悪くない。幼馴染の方が上だけどね、とは言わない。あれは規格外だ。性格もなんだかんだ言って人好きしそうだし。なんだか幼馴染が好きそうなタイプなんだよな、と皇族相手に随分不敬なことを考えてから・・はた、と気付く。



あれ?




"スザクさんもよく知っている方ですよ。"



ナナリーの台詞が頭をよぎる。




ちょっと待て・・・。少し待て。
なんだか凄く嫌な予感が。


考えてみたら、ルルーシュが初恋するくらい昔(たぶん)で、僕が知っている女の人と言ったら、総督か神楽耶かユフィくらいしかいないじゃないか。あの幼馴染ならナナリーやマリアンヌ様というラインも捨てがたいのだが、ナナリーの言い方じゃナナリー当人って感じではなかったし、マリアンヌ様は僕がよく知っているという条件に該当しない。神楽耶にしたって、ルルーシュが会ったのは1回か2回きり、しかもそんな雰囲気は皆無だったから除外しても問題は無いだろう。となると残るは





総督か・・・ユフィ。








それはまずい。


総督なら問題は無い。
聞いた限りだと、総督はルルーシュをかなり溺愛していたらしいけど、こっちならまだ家族愛ですませることができる。話の雰囲気から言って、おそらく恋愛感情では無かったはず。

しかし、ユフィはまずいのだ。
洒落にならない。


なんでかって・・・






ユフィはいまだにルルーシュのことが好きなんだよ・・・。




















「勘弁してくれ・・・」

「にゃにゃ?」



かつて、これほどに殺意を感じたことはあっただろうか。
猫は好きなのに・・・




窓の外を見てみると雨が降っていた。



お茶会は中止らしい。

























+++




「いや、考えてみたらまだ確定じゃないんだよね!・・・うん、そうだよ!僕の思い違いってこともあるし!でも確認はしないでおこう!やっぱりルルーシュも知られたくないだろうしね!そもそも初恋なんて恋愛感情を含んでいるのかも怪しいし!気にしないよ!僕は気にしない!だから、でもユフィだけはやめてルルーシュっ!!!」





「あの馬鹿・・・」


帰り道に叫んだ僕の無情な叫び声はご近所に丸聞こえでした。




+++

スペシャルな特典についてはまた今度。



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