「・・・駅前なんか比較になんないね」
日曜日。予(かね)ての約束通り僕らは遊園地に来ていた。








「どうかした?」
「いや、さすがに日曜だけあってカップルが多い・・・っていうか多過ぎない?」
右も左も明らかにデート中ですオーラを出している男女ばかりの光景にスザクは圧倒される。
日曜の遊園地ってこんなだっけ?もっと家族連れとか、友人同士とかは・・・いや、いるにはいるのか。ただそっちが多過ぎて目立たないだけで。心なしか微妙に居辛そうに見える。
かくいうスザクも立派なカップルの一員であるのだが。
「スザクったら知らないの?」
「何が?」
「この遊園地、恋人同士に凄く人気があるのよ?」
「恋人同士に?」
そんな遊園地があるの?そんな意を込めて聞けばユーフェミアは嬉しそうに説明を始めた。
「なんでもこの遊園地、恋人同士向けのイベントが多くらしくて。ほら、店の雰囲気なんかもそっち向けに作られているでしょう?」
「うん?あぁ、言われてみれば・・・」
そうなの、かな?そこら辺に疎い僕にはイマイチよく分からないのだが。
でもとにかく概要はわかったとばかりにスザクは頷いてみせると、そんな僕が分かっているのかユフィは軽く微笑んだ。
「夜になればもっと分かりやすいかもしれないわね」
「夜になると何かあるの?」
「ライトアップされてムード満点。花火が上がったりお店なんかもカップル仕様になるみたい」
「へぇ・・・色々考えてるんだね」
「勿論家族連れの方も来てるみたいだけど、夜になるとほとんどが恋人達でいっぱいになるって聞いたわ」
「はは、間違っても男同士じゃ来れないね」
「浮くのは確かね。試しにルルーシュを誘って来てみたら?」
そう言ってユフィは笑った。
ユフィは冗談のつもりで言ったのだろうけど僕はその言葉を聞いた途端に体を強張らせる。
「スザク?」
黙りこんでしまった僕の方をユフィが不思議そうに見つめてくる。
それに慌てて僕は普段通りの表情を取り繕うが、既に頭の中には昨日の出来事が浮かび出されていた。








+++



「お前なんで・・・」
「なんだ?ルルーシュ」
「・・・なんでここにいるんだ?」
突如現れたその少女にルルーシュが尤もな質問を投げかけた。
「ナナリーに教えてもらった」
「ナナリーに?」
「友達だからな」
その言葉を聞いてルルーシュは眉間に皺を寄せるが、対してシーツーと呼ばれた少女は楽しそうに顔を綻ばせるだけだった。



校門のところで少女に呼びとめられてルルーシュが話し始めると元々騒がしかった辺りは一層騒がしくなった。当たり前だ。少女の顔は所謂美形という部類に入っていて辺りが騒がしかったのもきっとそれが原因だろうというのに。そんな彼女がこれまた校内でも有名な美少年であるルルーシュの名を呼び、あまつさえそのルルーシュが問いかけに応じたのだ。騒ぎは当然。自分の容姿というものをイマイチ自覚していないルルーシュのこの振る舞いは明日には全校生徒の噂の的、学園を押しての一大事となることは決定だろう。
その証拠に周囲で囁かれている声に耳を傾けてみれば、あの人ルルーシュ君の彼女なの?だとかすごい美男美女カップルね!だとか彼女いたなんてショック!だとかいったような言葉が飛び交っているのだ。
忘れていた苛立ちが再び燻ってくるのを感じた。いや燻っているところかむしろ既に少女が嫌いだとかそういう次元ではないというほどにまでそれは悪化していた。
「なかなかモテるじゃないか」
「何がだ?」
からかい交じりの少女の言葉にルルーシュが意味がわからないというように答える。
そのルルーシュの言葉に少女が目を見張った。
「・・・わざとか?」
「だから何がだ」
「・・・いや。まぁわざとだろうがあるまいが、楽しいのは確かだしな」
「?・・・変なやつだな」
ルルーシュは不思議そうに、しかし次の瞬間にはその美しい相貌を微笑させたのだ。


その表情にその対応にスザクは瞬間的に頭に血が昇る。


ルルーシュがこんな風に笑う相手をスザクはナナリー以外に知らなかった。
何故だかスザクはどうしてもその顔を見ていたくなくて。見せたくもなくて無理矢理2人の間に割って入る。
その突然の行動にルルーシュは驚いたようにスザクの名を呼ぶが、そんなことはもうどうでもよかった。スザクはただルルーシュとの間に入ったことによって自分の正面に位置することになった彼女を必死に睨んだ。
背中にルルーシュを庇って。
その挑戦的な視線に、今度は少女が少し不愉快そうな表情を作る。そして先までの(今現在も)スザクと同様にどこまでも剣呑な眼差しで睨みつけてくる。負けじとスザクも一層強く睨(ね)めつける。



そうして幾許の時間スザクと少女の睨み合いが続いて、
状況のわからないルルーシュもどう動くべきかを逡巡させている中に、


「スザク?」


唐突に膠着状態が解けた。



「・・・ユフィ」



先ほど別れたばかりのユフィだった。



正直この声の掛け方はしばらくはやめてほしいのだけれど。
そんなことが彼女に伝わるはずもなくユフィは僕らに気が付くと少し小走りになった。
「スザク、さっきはびっくりしたのよ?あんないきなり・・・ってあら?」
いきなり走って消えた僕に本当に驚いたのだろう、ユフィはそう言いながら僕の元にやって来て。
そこでようやく彼女の存在に気付いてユフィはその大きな目をパチクリと見開いた。
「また会ったな」
CCと呼ばれた少女が笑う。先までの状況は微塵も感じさせない笑顔だ。
「あなた確か、シーツーさん?」
「いかにも。私はCCだ」
無駄に自信有り気な声で返すと、ユフィはぱぁっと顔を華やかせた。
「まぁ!お久しぶり・・・ではありませんね。昨日ぶりです。お元気でしたか?」
「元気も何も昨日の今日だからな。まぁ昨日と変わりはしないさ」
「それでは尚のことお気を付けて下さいね」
「・・・どういう意味だ?」
「昨日と同じでは今日もよろしくないのではないですか?」
その言葉に今度は少女が目を見開いて、しかし次の瞬間至極愉快そうに表情を変化させた。
そして意味あり気にルルーシュの方を向くと、
「お前の周りは面白いやつらばかりだな」
そうルルーシュに告げる。
その台詞にルルーシュは苦笑いを浮かべながら応える。
「ユフィは昔からこうなんだよ。よく人を見てる・・・」
「血筋か?」
「・・・お前、ほんとにどこからどこまで・・・いや、いい。俺に用事があるんだろ?場所を変えて話さないか?」
「あぁ、そのつもりだ」
「じゃあな、スザク、ユフィ。・・・また月曜」
「またな。お似合いカップル共」


そう言って早々に去って行く2人はそれこそお似合いのカップルのようで。
いや、だからこそ少女はそう言葉を掛けたのだろう。スザクだけに向けられた明確なメッセージ。
それは明らかな敵意だ。
それを的確に読み取ったスザクは、溢れんばかりに煮え滾った自身の感情をどうすることも出来ずにただ持て余す他なく。
黙り込んでしまったスザクをユフィは心配気に覗き込んでくるがそれすらも今はただ苛立ちを募らせるだけで。スザクは適当にユフィに別れの言葉を告げるとさっさとその場を離れ、辺りが静けさを持つ住宅地に来た頃にはその小走りは全力疾走へと変わっていたが、


何も考えられなくなればいいのに、


そう思うスザクとは裏腹に部活で鍛え上げられたスザクの肉体は学園から自宅までの全力疾走にも汗一つ流させることはなかった。







+++



・・・く、
す・・・ざ・・・く、
すざ・・・く、

「スザクっ!!」
「うわぁ!!」

いきなり耳元に響いた大声に僕は情けない悲鳴をあげた。
慌てて視線を合わせればユフィが少しむくれて僕の方を覗き込んでいる。
「ゆ、ユフィ・・・?」
「戻ってきました?」
「え?・・・あ、」
「もう、スザクったら何度呼んだと思ってるの。何度呼んでも上の空、というより考え込んでて・・・」
どうやら僕はまた思考の中にもぐり込んでしまっていたようで。ユフィがさすがに今度は少し悲しげな表情を作って僕に抗議の声を上げていた。
「ご、ごめん!」
「いいわ。スザクがそんな態度取るの珍しいし。最近は多いけど・・・」
「うっ、ほんとにごめん、僕・・・」
「なんて嘘よ。気にしてないわ」
居た堪れなくなって謝るスザクにユフィは彼女っぽく怒ってみたかっただけと笑った。だけど僕はその言葉に余計に居た堪れなくなってしまう。だって埋合せで来た遊園地で、彼女をほったらかしにして思考を飛ばしてしまうだなんて。しかも正真正銘の彼女に彼女っぽくだなんて言わせたのだ。僕は申し訳なさやら憤りやらで自己嫌悪に陥る。
そんな僕をユフィはしばらくじっと見詰め、そして少し寂し気に笑った。
その表情に僕は疑問を浮かべる。
「ゆ、」
「なんだ、お前たちも来ていたのか。奇遇だな」
けれど問いかけようとした僕の言葉に被さるように後ろから声が掛かった。


この声、は・・・、


もう何度目かになるこの登場シーン。
だからこそ振り向けないスザクは、どうか人違いでありますようにと、祈るように拳を強く握った。
けれどそんな願いも虚しくユフィによって残酷に宣告が落ちる。


「まぁ!シーツーさんではないですか」
「今度は一昨日振りだなユフィ」
少女の名を呼んだユフィに、彼女は楽しげに言葉を返した。
「はい。こんな所で意外ですね」
「そうか?」
「静かな場所を好むイメージでした」
そう言ってユフィは柔らかく笑う。
「私だって遊園地くらい来るぞ?まぁ初めてだがな」
「初めてなのですか?」
「あぁ初めてだ。そんなに興味もなかったのだが・・・悪くもないな。少し騒々しいのが難点だが」
しかし少女は言葉とは裏腹に楽しそうに笑う。
「私たちもこの遊園地は初めてなんですよ」
それが嬉しかったのかユフィは、ね、スザク?と僕に話を振るが。
僕は未だにショックから立ち直れないのと、どうしても彼女と話しをしたくない一心で無言しか返せなかった。
ユフィはそこでようやく僕の様子が尋常じゃないことに気が付いて口を開き掛けるが、そんな僕たちの様子にはお構いなしに少女が先に口を開いた。
「そうなのか?」
少女は少し意外というように目を見開いた。
先のユフィの発言だろう。
「あ、はい。・・・えーと、そんなにおかしいですか?」
私たちが初めてなのが。僕の様子が気に掛かっている様子ではあったが、少女の予想以上の驚きにユフィは不思議そうな顔をする。けれど肯定を受けた少女はといえば何やらぶつぶつと独り言のようなもの言い始めユフィの言葉など聞こえていないようだ。
けれどしばらくして、
「お前たちはこういう所はもっとよく来るのかと思っていた」
この遊園地オープンしてから割と経っているだろう?そう口にする。
その言葉にユフィは困ったように少し笑って、
「私たちは受験生ですからなかなか機会がなくて」
「・・・お前、」
「そういえばシーツーさんはお一人なのですか?」
「ん?」
ユフィの言葉に少女は少し不可解そうな表情をして言葉を紡ごうとしたが、それを遮るようにしてユフィが少女に尋ねる。そのユフィにしては珍しい態度に僕は少し驚いたが、けれどそれよりもユフィの言葉の方が気になって仕方無かった僕はすぐにそのことを意識から外して辺りを見回した。
連れの姿はない。
そのことに何故か少しほっとし、そしてその頃になってようやく余裕が出てきた僕はいい加減に何か話すべきだろうと口を開いた。
のだが、けれどそれよりも少女の方が早かった。
「あぁ、それならほら、」

“アレ。”

ぎくりとした。


指がさす方向に視線をやれば―――、



「CC!あれほど勝手に動くなと言っただろうが!お陰でどれほど探し回ったと、・・・スザク?」



声を荒げながら走りよってくるその姿は紛れもなく―――、




「・・・ルルーシュ」



僕はその姿に、

震えないように声を返すのが精一杯だった。






+++


「スザク、大丈夫ですか?」
前を行くルルーシュと少女の後を追うようにして後ろを歩いていたスザクに、その隣りを歩いていたユーフェミアが話しかける。
「ん?何が?」
「何がって・・・」
「どうしたのユフィ?」
笑ってそう返すスザクは一見普通のようにも見えるがやっぱり常とは違っていた。
しかしそれがわかっていてもユーフェミアはスザクに何かを返すことは出来なかった。


「お前たち、次はあれでどうだ?」
そんなスザク達に少女が振り向きながら声を掛ける。
その少女に合わせるかのようにルルーシュも振り向きスザク達が追いつくのを待っていた。
少女が指したものは振動の少ない簡易コースターだった。カップル仕様なのかはよくわからないがやたらとメルヘンチックな装飾が施されている。(遊園地とはそういうものである)


「まぁ可愛らしい!いいですね」
少女の提案にユーフェミアは笑顔で頷いてルルーシュも同意を示す。
そんな3人の会話をスザクはつまらなそうに聞いていた。
もはやスザクの頭にはデートどころではなかった。


何故こんなことになったのか・・・






+++



少女から遅れてルルーシュがやってきたところで、スザク達の間には微妙な空気が流れた。
向こうにしてみればこちらのデートを邪魔してしまったようなものであるし、自分たちのデート(男女の間で遊園地と言えばデートしかないだろう)を見られたという意識もあるわけだから、やってきたルルーシュが一瞬言葉に詰まってしまったのも頷ける。けれどこちらはと言うと別に今更デートを見られたところで気にするような間柄ではないし、むしろルルーシュを誘って3人でどこかに行くこともあるのだ。だからデート中を見られた気恥ずかしさとか邪魔されたとかいう意識などは全くなくて。事実ユーフェミアはとても嬉しそうに2人を迎い入れたのだ。では何故こんな微妙な空気が流れているのかと言えば・・・


明らかにスザクが原因であった。


ルルーシュが来るなり歓迎を意を表すユーフェミアの隣りで、スザクは何故か黙り込んでしまったのだ。
ユーフェミアが少女を気遣って(ルルーシュは今更気遣うような関係ではない)スザクに声を掛けてようやくルルーシュに挨拶こそしたものの(そもそも少女に気を遣ったのにルルーシュに挨拶とは何事なのか)、スザクの機嫌が悪いのは確かであった。表情こそ笑顔であるが明らかにいつもの調子ではない。スザクがこういう顔をしている時は危険であると、ルルーシュもユーフェミアもよく知っていた。だからこそまずいと思って何故かはわからないがとにかく微妙な空気になってしまった今はその場を別れるが得策と。ユーフェミアとルルーシュが行動に出ようとした所で、何故か邪魔が入った。少女によってだ。
CCはスザクが笑顔になったのを見てから(明らかに作り笑いのもの)それは楽しそうな表情をしてなんとダブルデートを提案をしたのだ。


これに焦ったのは当然憐れな兄妹である。


ルルーシュは慌てて少女を止めようとして、ユーフェミアは逆にスザクへのフォローに入った。何とかして別れようと努力してるのだから空気読め!というやつである。けれどそんな2人の努力は空しくここで更に悲劇が起きる。


なんとスザクが少女の提案を受け入れてしまったのだ。


これにはルルーシュとユーフェミアは驚きを隠せなかった。てっきり2人はスザクが少女と一緒にいたくないが為に不機嫌になったのだと思っていたからだ。
突然少女の提案を受け入れたスザクに2人は不審そうな視線をスザクに向けた。
けれどそんな2人の視線に何?とこれまた素晴らしい笑顔で持ってスザクが返せば2人は慌てて何でも、と視線をあらぬ方向へと向けて誤魔化すしかなくて。まぁスザクの意図が何であったとしても当のスザクが了承を示しているのならばとルルーシュとユーフェミアも少しの疑問を抱きながらも合意を示したのだった。


かくしてダブルデートの出来上がりである。





「だけど空気は最悪ね・・・」
ユーフェミアはそう呟くと聞こえないように小さくため息を吐いた。
隣りに視線を向ければ前で楽しそうに会話をしている2人を見て更に機嫌を降下させるスザクがいる。
絶対零度の笑みである。
「す、すざく・・・」
「何?ユフィ」
「あ、あのね、」
「うん何?」
「・・・な、なんでもないわ」
「そう?」

ユーフェミア惨敗。
意気消沈しているユーフェミアに後ろを振り向いたルルーシュの視線が向けられる。
ユーフェミアがそれに気付くと、ルルーシュとユーフェミアのアイコンタクトによる不可解なやり取りが始まり、
けれどしばらくした頃には先までの不安など嘘のように晴れやかな顔をした少女の姿があった。

その内訳はこうである。

”すまないスザクの調子はどうだ?”
“無理だわ!”
“そうか”
“どうしようルルーシュ”
“取りあえず今は軽くその辺を回ってその後は適当に別れるからそれまで頑張れ”
“ルルーシュ!”

ここまでがすべて無言のやり取りであるというのだからさすがは兄妹といったところだろうか。すでにテレパシーの領域にまで突入していた2人は、しかし失念していた。
確かに今現在頼りになるのはお互いだけで今のこの状態を打開するにはそれ相応の戦略というものが必要ではあるのだが。しかし今この場面でこんな軽はずみな行動をするべきではなかった。少なくとも枢木スザクという人間を知っているのであれば。


枢木スザクという人間は営業用なのか素なのかはわからないがひどく温厚な人物である。そして寛大でもある。それはルルーシュのような人間と平気で付き合っていけることからも言えるのだが。
けれどだからと言って必ずしもスザクが全身隈なく解体したとしても汚れ一つ見つからないような善人であるかと言われれば答えはノーである。


枢木スザクという人間は確かに優しく、悪を許さない正義の心を持ち合わせた好青年ではあるがその本質はひどく自分主義であった。外部がたとえ何と言おうと自分のルールをはみ出すものに対しては容赦はしなかったしまた普段が寛大な分その反動も格別に大きかった。というのも自分の許容範囲内で起きた事象に関しては何も言わずに見過ごすスザクはけれど自分が執着する一部の事象に対してはどこまでも狭量、狭いなんてものじゃないむしろ線、点と点であったのだ。
その上枢木スザクは滅多に人に執着はしないのだが、かと言ってまったくそんな存在がいないわけでもなかった。そのテリトリー内に位置する希少な人間というのが言わずもがなルルーシュとユーフェミアである。(詳しく言えばその2人が目に入れても痛くないほどに可愛がっている妹もいるのだがここでは割愛するとして)
とにかくその2人は数少ないスザクの内側に入っていた人間で、加えて枢木スザクはそう言った自身が大切に思っている人間によって自身を無視されるのが何よりも嫌いであった。


つまり何が言いたいかというと。


ユーフェミアが何とか今のこの最悪の空気とやらを打開しようとルルーシュに相談を持ちかけたこの行為。紛れもなくスザクが嫌いなことワースト3に入る行動だということだ。おまけに2人だけで隣りにいるスザクを無視して何かを通じ合ってる(流れる血のなせる業なのでスザクには解読不可能)らしい。ともなればだ。はい解答。



枢木スザクはそろそろ限界であった。



(なんで僕だけ無視なの?)

その一言に尽きた。
だって唯でさえ気に食わないCCがいるこの場で。ルルーシュは自分のことは無視するくせに(スザクはそう感じた)ユフィとは仲が良さそうにして。
そもそも彼女ではないと言ってたくせに自分はちゃっかりと遊園地(しかも恋人向けらしい)に2人っきりで来ていたのだ。その上先からルルーシュはその少女を気に掛けっ放しでスザクのことは全然構いもしないでひたすらに彼女のエスコート。
喉は渇いていないか疲れていないか調子はどうだ。そんなに疲れているのならさっさと帰ればいいのに。そろそろ取り繕う余裕のないスザクはただひたすらに我慢がならないような2人、いや3人の態度にひたすらにフラストレーションを溜めていた。それはもう爆発寸前というところまで。


「あぁもうまた腕なんか組んでるし・・・」
言った矢先からまた堂々といちゃつき始めるバカップル。
というのは正しくない。正確にはCCが一方的にルルーシュに腕を絡ませたり背中から抱きついたりしているだけでルルーシュはその度にやめろと、口では言っているのが何だかんだでその行動を甘受けしているというのが現状だ。
そんな光景を見せられ続けているスザクはと言えば、先のユーフェミアの消沈ぶりを見ればわかるだろう、じっと2人を睨みつけるように目を狭めては周りの人を引かせているのである。主にユーフェミアを。(ルルーシュは背中で気配を感じとっては恐々としている)


「割と空いていたな」
そんな2人を余所にCCはコースターを乗り終えてご機嫌なのか嬉々として言った。
普段のイメージとしてはこう言った物で喜ぶようにも見えなかったので状況が状況でなければもっと微笑ましい図であっただろう。だから少し気が抜けたのかルルーシュは少し微笑する。けれど、
「来週が連休だから、」
「そりゃそうでしょ。さっきから態々人気の無い物ばかり乗ってるんだから」
今週はいつもより空いているのかもしれないな、CCに掛けようとしたルルーシュの言葉は悪意すら感じられる声の持ち主、スザクによって遮られた。
「・・・スザク」
さすがにルルーシュが窘めるように名を呼ぶ。
それにスザクは少し不満気な顔をするが、さすがに自分でも悪かったと思ってるのか割と素直に謝罪を口にした。(何故かCCにではなくルルーシュにであったが)
それでもせっかく和みかけた空気は粉々に消し飛んでしまった。
あぁ頭痛が・・・


まぁ仕方無いと言えば仕方無いのだが。先からスザクの態度ばかりが目に付くが確かにCCにも悪いところがないとは言えないのだ。
「なんだ?不満なら何か好きな物でも乗ってくるか?2人で」
そうこんな風に。
スザクがCCを気に入らないということはこれまでの流れで十分にわかったわけだが、どうしてかCCの方も方でスザクを何かと嫌っているらしい。端々に挑発の気が見られる。
申し出自体はルルーシュもユーフェミアも願ってもないものなのだが。何故か同意するには憚れる雰囲気なのである。
「・・・4人でいるのに君1人の好みで乗る物を決めるのはどうかと思うよ」
そして案の定スザクはその挑発に乗るのだ。ユーフェミアとルルーシュは胃が痛くなっていくのを感じた。
「さっきから乗るものと言えばコーヒーカップやらメリーゴーランドやら子供向けの乗り物ばかり。偶には違う物も乗ったらどうなんだい?」
「他に何があるっていうんだ?」
「絶叫系」
「却下だ」
そう言った途端スザクの額に青筋が浮かぶ。
あぁもう・・・、2人は胃に手を当てた。
「な・ん・で?」
「ああいうものは好まない」
「それは君の意見だろ!?僕はああいうのに乗りたいんだああいうのが好きなの!もう子供向けはたくさんなんだ!」
たかだか乗り物に何をこんなに必死になっているのかわからないが、普段なら周りの意見を優先させるスザクはとにかく、この女にだけは譲りたくなかった。


そんな敵意むき出しのスザクに対しCCの方はと言えば。何やら少し考え込んでからそちらへと顔を向けた。
「お前は何に乗りたいんだ?ルルーシュ」
俺!?とルルーシュが慌てたのは言うまでもない。哀れにも貧乏くじを引いてしまった(引かされてしまった?)ルルーシュは突然の指名に顔には出さないが内心で相当に慌てていた。
「そうだよ、ルルーシュ。ねぇルルーシュ?君は遊園地って言ったらこんな簡易コースターじゃなくてもっと迫力のあるジェットコースターに乗るべきだと思うよね?」
「何を言う、そんな在り来たりの物ばかり乗っていて何が楽しいんだ。そもそもああいったものは通常1時間待ちもザラじゃないって聞いたぞ?そんなものを数回でも乗ってみろ、優に3時間はロスだ。効率的じゃない。やはりここはミラーハウスだろう」
「乗りものですらないじゃないか!そもそも遊園地っていうのは効率で遊ぶものじゃないんだ。いくら時間が掛かるからって乗りたくないものばかり乗っていてどうするんだよ」
「乗りたくないのはお前だけだろ、他はみんな楽しそうにしている」
「それはルルーシュやユフィが優しいからだ!2人は何も言わないけど2人だって君が言うものなんて退屈してるに決まってるだろ!?昔から遊園地って言えば3人でっ、」
「スザクっ!」
「・・・あ、」
「スザクいいから」
「でもっ!」
確かに少し言い過ぎたかもしれない、そんな考えがスザクの脳裏に浮かんだけれど、自分が間違っているとも思えないためにスザクは中々引けずにいる。(だって昔から2人とも絶叫系は好きだった)それがわかったのかルルーシュは、
「俺たちはいいよ、スザク。そもそもお前たちのデートを邪魔してしまったのはこっちだしな。だから、」
「っ嫌だ!」
潮時だろうとばかりに話すルルーシュの言葉の先が聞きたくなくて、気が付けば叫ぶようにルルーシュの言葉を遮っていた。
「スザク?」
そういうことじゃないんだ!そういうことじゃなくて・・・っ。
咄嗟にそんなことを思ったスザクはけれど、じゃあどうしたいのかと言われたとしても言葉にすることができないのだ。そんなもどかしさを抱きながらスザクはぽつぽつ言葉を重ねた。
「べ、別にみんなで回るのが嫌なわけじゃないんだ、僕だってみんなと一緒にいたいし、2人っきりのデートだけに拘ってるわけでもないから、だから4人で一緒にいたい。・・・ごめん、乗るものは何でもいいからみんなで回ろう?」
気が付けばスザクは必死にそう言い募っていた。ここで説得出来なければ2対2に別れてしまうことは必至だったからだ。自分でも何をそんなに焦っているのか分からないがスザクはとにかく別れたくない一心で話しを続けた。
そんなスザクにルルーシュはしばらく考え込むと。
じゃあとりあえず俺たちは一回休憩を入れるからその間お前たちは好きなものを乗ってこい。安心しろ、別に帰ったりはしない。俺たちはそこのカフェにいるから終わったらここに来い。
そう言ってスザクを安心させるかのように微笑んだのだ。その言葉にどこか甘やかす響きを感じ、スザクが渋々ながらも頷くとルルーシュはにっこりと微笑んでほら行ってこい、とスザクの背中を押す。
そのどこまでも優しい手の感触にスザクはその場から離れがたい気持ちに駆られるが、今更乗りたくないとも言えないので、ユーフェミアを連れてその乗り場へと進み始めた。
何となく。後ろを振り向けばそこには飲食店へと歩み始めた2人の姿があって。
それを目にとめた瞬間スザクは切なさに目を細めたのだった。
「スザク・・・」
小さく呟いた少女の声など聞こえずに。





+++



スザクとユーフェミアが向かったジェットコースター。
運が良いことに20分待ち程度で乗ることが出来たそれは普段であれば他のどれよりも早いスピードと迫力で爽快感を与えてくれるはずなのに。けれど今は乗り終えてもスザクにただ虚しさと淋しさだけを齎すだけであった。
乗り終えて待ち合わせに向かうと、向かってくるスザク達に気付いたルルーシュがこちらを見て手を振ってくれる。自分たちの場所を知らせようとしてくれているのだろう。
その姿にスザクは知ってるよずっと見てたから、と心の中でだけで呟いた。
「楽しかったか?」
「・・・うん」
「?楽しくなかったのか?」
「え、あ、いや・・・楽しかった、よ」
どこまでも歯切れの悪いスザクにルルーシュは首を傾げるが、しかしすぐにユフィと会話を始めてしまう。そんな二人を眺めてスザクは思った。


君がいない、から楽しくなかったのかな・・・?


それは大切なことのような気がした。
昔から、とは言っても中学の時だから数年前のことなのだが。その頃からルルーシュの隣りというのは特別だった。僕はユフィが好きだったけどそれでもルルーシュは特別で。そしてユフィもルルーシュは兄であるという以上にきっと大切な存在で、僕らは互いにルルーシュが好きで好きで堪らない同士であったから。必然的に遊園地に来る度にユーフェミアとはルルーシュの隣りを取り合うことになったのだ。
その度にルルーシュは仕方がないなと苦笑いをして。でもその顔は優しさが滲み出るように柔らかく、そして何よりもルルーシュ自身も幸せそうにしてくれていたから。勝ちとったルルーシュの隣りで乗るジェットコースターは勿論、負けて2人を後ろから眺めることですら大好きな2人が自分の視界の中にいる、嬉しくて仕方無かった。それだけで僕は幸せだったのだ。


そんなことにも、先にユーフェミアと2人で乗って初めて気付いた。
何の勝負もなくすんなりと決まった席。当たり前だ。2人しかいないのだから別々に乗るわけがない。それにどうしようもない物足りなさを感じて、つい取り合いの時によくやったじゃんけんを思い出しては自分の握った拳を見つめているとユーフェミアも同じことを思ったのか、ルルーシュがいないと何だかさびしいですね、と淋しそうに笑ったのだ。
その瞬間にスザクは気付いた。
自分が何故ここまで面白くないのか、どうして乗る度に憤りを、違和感を感じていたのか。
それは今までずっと自分たちのものであったルルーシュを今日はCCが独占していたからだ。
何の相談もなく自動的に決まる席順。それは当然のようにスザクとルルーシュを別つもので。遊園地に来る度にその席は特別なものとしてユーフェミアと取り合っていたスザクにしてみれば当然のようにその隣りに納まってしまうCCは許せるものではなかったのだ。
ルルーシュと遊園地に来れるだなんて滅多にないのに、その思いも相まってスザクはずっと不満を抱えていた。けれど・・・そこまで考えてから、更に思ったのだ。
最後に自分たちが遊園地に来たのはいつだったのかと。
思えばここ2、3年まったく来ていない気がする。何故・・・?確か高校に上がって、その頃には自分とユーフェミアは付き合っていて。遊園地に誘ったけれどルルーシュは断って。でもスザクとユーフェミアがしつこく誘い続ければルルーシュは遠慮がちではあったけれど渋々言うことを聞いてくれたのだ。でもそれも長くは続かなくて。
高校も2年へ上がった頃にはルルーシュはほとんどそう言った誘いには応じなくなっていた。普段遊ぶのはいいがさすがに遊園地とか映画館とか、そう言ったものまでついていくわけにはな。2人でデートしてくるといい、というのがルルーシュの言い分。
けれどスザクはそんなルルーシュに不満を抱いていた。
確かに自分とユーフェミアは付き合っているけど、ルルーシュを邪魔だなんて思ったことは一度もないのに。ルルーシュはスザクがそんな風に思っていると本気で思っているのかとひどい憤りを感じたのだ。けれどそれをぶつけてもルルーシュは結局折れることはなく。必然的にスザク達も遊園地に来ることなどなくなっていった。
ルルーシュが来なければ意味などないから・・・


あれ・・・?


今何かおかしかったような・・・
何かがわかりかけてスザクは慌てて思考を反芻するが、けれど何がおかしいのかわからずに首を傾げる。
「スザク?どうした?」
乗らないのか?とルルーシュが不思議そうにスザクを見ていた。
その声に周りを見渡してみれば既にスザクを除く3人はロケットの形をしたやっぱり簡易コースターに乗りこんでいて。慌ててスザクはユーフェミアの隣りに乗り込む。
けれど同時にまたか、とも思った。
ルルーシュの隣りにはCCが、スザクの隣りにはユーフェミアが。
当たり前のことではあるが偶にはルルーシュと乗りたいとも思う。自分たちは親友同士なのだし席替えがあってもいいのではと思わずにいられないのだ。そもそも必ず2人乗りの物を選ぶからいけないんだ、選んだのがCCであることも手伝ってその選択に不満が向かう。
そうだよ、次は4人で乗れる物にしよう!絶叫系でなければ彼女はいいようだしそうだそうしようとスザクは名案だとばかりにそんなことを思った。




「何?観覧車?」
「うん。乗りたいんだ」
「乗りたいってお前・・・」
ルルーシュの言いたいことは分かる。普通は観覧車と言えばトリの乗り物だ。こんなまだ明るいうちから乗るものではない。けれど・・・
「ダメかな?」
どうしても乗りたいスザクは切なげにルルーシュにお願いする。
基本的にスザクに甘いルルーシュはこうすれば高確率でスザクに折れてくれるからだ。案の定ルルーシュは駄目というわけでは、とたじろいでスザクの方へと傾いている。
「でもお前、ああいう大人しい乗り物好きだったか?」
ルルーシュの疑問は尤もだろう。先まで散々絶叫系がいいのだとごねていたスザクが選択するものではない。観覧車など静かな乗り物の筆頭に位置するものだ。
何となく気分で、というようにスザクは緊張しながらも言えば、ルルーシュはそうかと頷くだけで深く追及はしなかった。それにほっと安心する。
自分でも何をこんなにむきになっているんだかと思わずにはいられないが、でももう、どうにかしてでもルルーシュと一緒に乗らなければスザクの気はすまないというところまできていた。周りを軽く見たけれど確実にルルーシュと乗れるものは観覧車くらいしかなかったのだ。形振り等構ってはいられない。
「私は別に構わないぞ。騒がしい物でなければ問題ない」
「私も構いません。観覧車は好きですし」
少女2人の同意を得られて今日一日最悪だったスザクの機嫌は急上昇する。
「2人もこう言ってるし、ね?」
「わかったわかった。だから手を引っ張るな」
早く早くというようにルルーシュの手を引いてそちらへと促せばルルーシュは仕方のないやつとばかりに苦笑いして言うことを聞いてくれる。その姿にスザクは嬉しくなってようやく今日初めて楽しいと思える時間が来るのだ。




・・・そう思ったのに、




「え?」
「え?」
「なんで?」
観覧車の列の一番先頭、そこに来てようやく一緒に乗れるのだと喜んだスザクはけれど、係員の人に2人組ずつに分けられてきょとんとした。
「どうした?」
「なんで、2人ずつなの・・・?」
「なんで、って・・・付き合っている彼女がいるのに普通4人では乗らないだろう・・・?」
何を当たり前のことをというように言ったルルーシュに、スザクは目に見えて動揺した。



せっかく一緒に乗れると思ったのに、
そのために4人乗りの物を選んだのに。
なのにまだ自分とルルーシュを分けようとする。
そのことがスザクにはひどく理不尽に感じた。



突然のスザクの変容にルルーシュは戸惑いつつも係員のどうぞーという声に引かれてルルーシュは目の前のゴンドラに乗り込む。
それを視界のどこかで捉えた瞬間、


「っスザク!?」
「スザクっ!」


目の前の背中を押して車内にその体を押し込めると自分も中に乗り込んでからスザクは扉を閉めた。それに驚いて固まってしまっていた係員は慌ててドアをロックすると、ゴンドラは空へと上がって行った。


スザクとルルーシュの2人を乗せて。







「・・・スザクったら」
「随分と素敵な彼氏じゃないか・・・」

スザクに退けられたCCは2人が乗っているゴンドラを睨めつけながら呟いた。
ユーフェミアは掛ける言葉を持たなかった。














「お前な・・・」
「・・・ごめんなさい」
既に地上を離れてしまったゴンドラの外を見ながらルルーシュはため息をついた。
「なんなんだ?何が不満なんだ?こんなことをして、」
危ないことをするなと叱ったやろうと思ったルルーシュはしかし、項垂れてしまったスザクを目に留めた途端どうしても怒りを持続させることができなくてあーもうっとばかりに席に着いた。
それにスザクは再び申し訳なさそうにして自身も席に着いた。その姿は捨てられた子犬も同然で。
「どうしたんだ?一体何が気に入らない?」
自然ルルーシュは優しく問いかけていた。
スザクがルルーシュは自分に甘いという所以である。
「・・・わからない」
「わからない?」
「わからないんだ。なんで自分がこんなことをしてしまったのか。さっきだって彼女にあんなことを言うつもりはなかったのにどうしても苛立ってしまって・・・」
思う浮かぶのは先の乗り物についての言い争い。
「・・・CCが嫌いなのか?」
ルルーシュは責めるでもなくスザクに言葉を掛ける。
「・・・そうかもしれない」
「何故?」
「・・・わからない」
「さっきからそればかりじゃないか」
「だっ、て・・・本当にわからないんだ!彼女は何もしてないのに、でも初めて会った時からどうしようもなく気になって、イライラして。こんなの理不尽だともわかってるのに気持ちが抑えられないんだ!」
「・・・じゃあなんで遊園地を一緒に回ろうだなんて言ったんだよ」
嫌いなCCがいるとわかっていて2人に誘いを持ち掛けたのはスザクなのだ。ルルーシュの言うことは尤もだった。
「・・・・・・」
「だんまり、か?」
そういうルルーシュにやっぱり何も言い返せなくて、スザクは黙り込む。
そんなスザクの態度に再びルルーシュはため息をついた。
無言のままゴンドラは頂上を目指す。さすがにここらで話題になるだけあってこの観覧車は大きく、既に5分以上が経過してもまだ頂上に達していなかった。



「最近、」
「ん?」
「最近、ルルーシュは距離を置くね・・・」
「は?」
突然始まった会話の内容が掴めなくてルルーシュはスザクを見る。
その視線にスザクはまっすぐに返せなくて。
外へと視線を流せば5つほど先のゴンドラが頂上に差し掛かっているところだった。
「今日も2人で遊園地に来て。・・・やっぱり付き合ってるんじゃないの?」
「・・・俺はそれを何度も否定したはずなんだけどな」
ルルーシュは呆れたように否定の意を表す。けれど怒ることをしないのは今のスザクの様子は普段と違うとわかっているからだろう。どこまでもルルーシュはスザクを甘やかす。
「わかってるよ・・・わかってるんだけど、」
こうやって確かめないと不安で不安でしょうがないのだ。ルルーシュが彼女を作ったんじゃないかとか、ルルーシュが誰か違う人のものになってしまうんじゃないかとか。ルルーシュが離れて言ってしまうんじゃないかとか。どうしてそんなことを思うのかはわからない、けれど・・・


「君が恋人を作るのが怖い」


その言葉にさすがにルルーシュは眉を顰めた。
「なんでお前がそんなことを言う」
「わからない、」
「またわからない、か。・・・そもそも作ってないって言ってるじゃないか」
「でもこれからはわからないだろうっ?!嫌なんだ、ルルーシュが他の人のものになってしまうのは嫌だ」
「なんで、」
「わからないっ!でも嫌だっ」
なんでそこまで執着する、と言いかけたルルーシュの言葉を遮ってスザクが叫ぶ。
ゴンドラが頂上に差し掛かる。



「・・・少し勝手じゃないか?」
「だっ、て」
「だっても何もないだろう。訳も言わずに、ただただ喚くことは俺に恋人を作るなの一点張り、」
「でも、」
「でも?」


「でも、君だって僕が好きだって言ってくれたのにっ!!」


叫んでから。
しまったと思った。


「・・・ここで、それを出すのか」
「あ、ちが、」
さすがにスザクも自分が触れてはならないことに触れてしまったことがわかる。
よりによってこんな風に持ち出すことではなかった。
2人の間ではタブーになっていたそれをこんな場面で・・・


「何が違う?恋人を作るなの次は自分のことが好きだろうだって?」
感情の籠らない声で言われたそれにスザクは臓器が底冷えするような焦りを感じる。
早く、早く何か言わないと・・・何か弁明を!
焦るスザクにルルーシュは今度は先までの怒りを露わにした表情とは打って変わってにっこりと笑った。
「なぁ?何がしたいんだ?お前は」
「ルルー、シュ」
けれどそれは本当に微笑んでいるわけでないのは明らかで。
スザクは言葉に出来ない恐怖を感じた。


「お前は今日一日不機嫌ばかりで。機嫌がよくなったと思ったら次の瞬間には急降下。お前ユフィを振り回してる自覚あるのか?今日ユフィが何度笑っていたか覚えているのか?」
「ルルーシュ、」
「無理矢理人を観覧車に乗せたと思ったら人に恋人を作るなだとか、好きになるなだとか。挙句昔のことまで持ち出して。俺はあの後に言ったよな?親友としてやっていこうって。お前は頷いたよな?それで終わったんじゃなかったのか?こんな風に持ち出して。すべてが無くなると思わなかったのか?」
「違う、そんなんじゃないんだ、僕はっ、」
「それともあれか?昔自分を好きだったやつが他のやつを好きになることが許せないか?」
「え?」
何を言われたかが分からなかった。


「自分に告白してきたんだからそいつはずっと自分を好きでいるべきだって?俺に一生お前に片思いしてろって?ユフィとお前が幸せそうに微笑むのを俺は傍でお前を思い続けながら、応援しろって?・・・いくら俺だって怒るぞ」
人を馬鹿にするのも大概にしろ。その目はかつて見たことがない程に怒りに染まっていて。
「ち、違う!僕はそんなことは望んでないっ!!」
あんまりなルルーシュのその言葉に僕は瞬間かっとなってルルーシュの腕を掴み。上から覆いかぶさるようにルルーシュを押さえつけていた。
ゴンドラがその衝撃で左右に揺れる。



「・・・は、自分の思い通りにいかなければ暴力、か?」

大層なことだ、ルルーシュは自分を遙かに凌駕する力によって押さえつけられても決して屈することはせずに。むしろスザク以上に強者の瞳でもってスザクを睨みつけてきた。
スザクはそのルルーシュに、
自分が何をしているのかが理解出来ずにただルルーシュを押さえつけて動けなってしまう。


そうして沈黙が過ぎていくほどに。
スザクは自分がしたことと、
ルルーシュにあそこまで言わせてしまうほどにルルーシュを怒らせたのだということが今更ながらに理解出来てしまって。


「スザク」
「な、に・・・ルルー、シュ、」
「・・・泣くなよ」
気付けばボロボロと涙を溢していた。
「だっ、て、ルルーシュ・・・」
「なんでお前が泣くんだよ・・・」
泣きたいのはこっちだ、ルルーシュはそう呟きながらもスザクを覆い被さられていた為に近くにあったスザクの体を、背中に手を回すことで抱きしめて。そうしてぽんぽん、とスザクの背中を二度叩いてくれた。



それは泣いているスザクを慰めるのと同時に、
ルルーシュによる許しの合図でもあって。


あれだけのことをされて言われたのにルルーシュはスザクのことを涙一つで許してしまうのだ。


そんなルルーシュの優しさに。
そして許されたという安堵感に。



スザクはゴンドラが終わりを告げる数分前まで、ルルーシュの腕の中で泣き続けたのだった。





+++

どこから補足するべきか・・・
変なところで切ってしまいましたがこれで遊園地編は終わり。ダブルデートも終わりです。
次回はいきなり次の日ですからもしかしたら物足りない方もいらっしゃるかもしれませんが、最後の間のユフィとCCの会話やアフター話はルル視点にてやりたいと思っているのでそれまでお待ちを〜。CCに関する訳あり事情もそちらでになります。
ちなみにCCの言動はわざと半分ともう半分は純粋に遊園地が楽しかっただけです。挑発云々は勿論CCによるスザクへの嫉妬。この話のCCは本当にルルーシュが好きなので。
転換期という割にはスザクに明確な変化はありませんでしたが、でも無意識下では理解し始めているのでやっぱりここが転換期なのです。
しかしうちのスザクは泣き虫・・・
実はまだ最後の校正入れていないので近いうちに補正いれます。

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