「あら?」
「どうしたの?」
僕たちは学校を出た後2人で街をぶらついていた。
最近はずっと勉強ばかりで煮詰まっていた僕をユフィが気遣って誘ってくれたのだ。せっかくの気晴らしだからと普段はあまり行かない地域へ足を運んだ僕とユフィは初めて訪れる街並みを歩んでいく。まぁ初めてと言ってもそんなに遠いわけじゃないのだけど。それでも普段は見慣れないその街並みはなかなかに華やいでいて。それなりに楽しめるものだった。
そんな中何かに気付いたのかユフィが前方を指さして不思議そうに声を上げたのだ。
「あそこにいるの、ルルーシュじゃない?」
「え?」
慌ててユフィの指さした方向へ視線を向ける。が、ユフィの動作の方が早かった。
「ルルーシュー!!」
朝とまったく変わらないパターンで再びユフィが声を張り上げながらその方向へと駆けていく。僕はそのいつも通りの構図に微笑ましく思いながらやはり後に続いた。きっとこれが僕らの日常なんだ、と、この時思っていた僕は、



ずっと変わらないものがないことさえ知らなかった。













自分を呼ぶ声に気付いたのかルルーシュはこちらを確認するように振り向いて、
そして僕らの姿を確認するやいなや硬直してしまった。
「スザ、ク、ユフィ・・・」
その様子にスザク達は首を傾げる。
「ルルーシュ、こんな所で何やってるの?」
ルルーシュがいたのは有名衣服店の入口で、その予想外の場所に僕とユフィは更に首を傾げる。完全なインドア派の彼がこんな所まで足を延ばすのは珍しい。ましてやそれが服のため?・・・まず有り得ないだろう。しかも限りなく挙動不審なその態度・・・何か隠してる?
「ルル、」
「ルルーシュ。終わったぞ」
僕がその何かについて彼に問い質そうとしたところで後ろから声が掛かった。
「どうだ、なかなかの美少女ぶりだとお前も、・・・ん?」
振り返った僕たちの目に映ったのは美しい緑色の髪に黄金の色をした瞳を持ついわゆる美少女。
その美少女はルルーシュを見た後に次いで僕たちにも視線を向け、そこでようやく僕達のことを認識したのかきょとんとする。
どうしてそうタイミングが悪いんだ、ルルーシュが額に手をやって呟いたが僕もユフィもそれどころではない。ルルーシュと女の子という言ってみれば有り得ない構図に僕たちは驚きも忘れただ2人を凝視した。
「なんだ、知り合いか?ルルーシュ」
「・・・学校の友達と妹だ」
「あぁ、そう言えばどこかで見たことがあると思ったら、お前の部屋のアルバムに貼ってあった写真のやつらか」
「勝手に見たのか!」
「仕方あるまい。なんせ今日一日、私は何もやることがなくて暇なことこの上なかったのだからな。お前の部屋はもう少し楽しめそうなものを置いておくべきだな」
「散々人の金でピザを喰っておいてどの口がそれを言う。しかも人の部屋をゴミだめにまでしやがって」
「いちいちうるさい男だな。細かい男は嫌われるぞ」
「デリカシーのない女も嫌われる」
「言うじゃないか童貞坊やが」
「・・・お前な、別に俺はこのまま帰ったっていいんだぞ?」
「・・・ちっ」


ナニコレ・・・


僕たちがいるにも関わらずまるでその存在を忘れたかのように夫婦漫才を繰り広げる2人。

なんだろう・・・


なんか凄く不快なんだけど。



「あの・・・」
「「ん?」」
同時に2人が振り向く。そのユニゾンも癇に障った。
「そちらの方はどなたですか?ルルーシュ」
戸惑いながらもおずおずと聞いたのはユーフェミアである。
その言葉にルルーシュがすっかり忘れてたとばかりに目を見開いた。
けれど少しばかり思案顔をしたかと思うとすぐに少女に視線をやり、それを受けた少女は心得たとばかりに頷いて店内へと消えていく。ルルーシュは少女が店内へと消えていったのを確認して、
「ちょっとした知人、だ・・・」
限りなく感情を排した口調で少女との関係を口にした。
だけど―――、


「知人って?」

そんな説明で納得できるはずがない。



感情を抑えて呟くように話す時のルルーシュは隠し事をしている時の癖。
僕は明らかに誤魔化そうとしていると分かるルルーシュの態度に初めて口を挟んだ。
「え?」
「知人って、いつ知り合ったの?彼女は誰?どこで知り合ったの?」
「・・・そんな一度に訊かれても答えられない」
「じゃああの女の子は恋人?」
「・・・ノーだ」
「本当に?」
「本当だ・・・というよりそもそもなんでそんなことを訊く」
「いや、随分と親しげだな、って思って・・・」
「やめてくれ。あいつとは親しくも何ともない」
そう言ったルルーシュは苦虫を噛み潰したような顔をしていて、
その態度に僕は少しだけ安心した。
ん?安心?・・・なんで?
突如沸いたよくわからない感情に僕は疑問を抱きかけて、


「随分な言葉じゃないか。一夜を共にした仲だと言うのに」


また、不快な声。
いつの間に戻ってきたのか少女がそこにいた。
少女は何故だかひどく楽しそうで、ルルーシュの後ろに近づいてはその背中を抱き込むようにして身を寄せた。
その仕草に、先までとは比べものにならない不快感が押し寄せる。
僕は苛立ちに任せてルルーシュの腕を掴んで声を掛ける。
「一夜って、どういうことルルーシュ?」
随分と聞き捨てならない言葉だ。
ルルーシュは僕の問いかけにほら見ろと言わんばかりに少女を睨むが、この後に及んでまだ少女の方に視線をやるルルーシュに僕は更に苛立ちを感じる。自然、掴んだ腕に力が籠もり、ルルーシュは僅かに眉を顰めた。
「誤解されるようなことを言うな。お前が帰る家がないといういうから泊めてやっただけだろ」
「・・・泊めたの?」
「誤解するなスザク、こいつにベッドを貸した後は俺は居間に行ってソファで寝た。それだけだ」
「こんな美少女がいるというのに、失礼なやつだな。これだから童貞は・・・」
「またそれか!いいからお前は黙っていろ」
「彼女、さん?」
「だから彼女じゃないと言っただろう!誤解するなユフィ!」
「仮に彼女じゃないとして、彼女の方はずい分その気みたいだね・・・」
「こいつのは人をからかって遊んでいるだけだ」
「別に遊びで言っているわけじゃないぞ。私は至って真剣だ」
「頼むからお前は黙ってろ!」
「あのぉ・・・」
「今度はなんだ!?」
「すっごく、注目されていますけど・・・」
「へ?」

言われたルルーシュが慌てて辺りを見回す。すると確かに店内中から好奇の視線が集中していて。ルルーシュはさすがに居心地が悪く感じたのだろう、憮然とした表情で僕の腕を解いて足早に外へと向かった。僕は納得できないながらも後に続いて更にその後をユフィと名も判らぬ少女が続いた。


そうだ、納得できないのだ。
何故だかわからないがひどくルルーシュが許せない。
でも何故―――?
疑問を浮かべながら外に出ても解消されるはずなどなく。
先ほどまで華やいで見えた街並みですら今は腹立たしかった。


あぁもう!










+++


「ったく、お前のせいだぞC.C.・・・」

店を出て少し歩いた所に偶々あった公園のベンチ。そこに落ち着いたところで彼女の名前が判明した。どうやらシーツー(?)という名らしい。本名・・・なのだろうか。いや偽名だろう。なんとなくそう思いたがっている自分に気付いてスザクは再びもやもやとした何かに襲われる。さっきから一体何だって言うんだ!?とばかりに自分に八つ当たり気味に問いかけるが当然答えなど返ってくるはずもなく。いっそ感覚統制器官に殴り込みをかけてやりたいくらいだった。
「何を言う。勝手に熱くなって勝手に注目を浴びたのはお前だろう。私は静かにしていた」
そう言って少女はついと顎を上げてどこまでも偉そうに喧嘩を売る。
会話じゃなくて喧嘩だ。そうとしか思えない。同じ偉そうでもルルーシュとは偉い違いだとスザクは思う。実際は大して変わりないのだがスザクの中で先に会ったばかりのこの少女は既にマイナスイメージもマイナス、極寒だったので逆贔屓が入ってることにすら気付かない。
「言っている内容が問題なんだ。そもそもなんで俺がこんな目に合わなければならない」
「私を拾ったお前が悪い」
「あぁ、今はつくづく後悔しているよ」
そんなことを言ってルルーシュは空を見ながらため息をつく。
その様子がまるでくだけた関係のカップルのようで、スザクの苛つきは今度こそ頂点に達しようとしていた。だがどんなに苛立ったところで事態は何も変わらない。スザクはそう自分に言い聞かせることで自らの感情を抑え込み、代わりにやるべきことをやることにする。
「2人はいつからお知り合いに?えーと、シーツーさん?」
名前のところだけ絶対零度なのは御愛嬌だ。
スザクは誤魔化しては話術で煙に巻くことがうまいルルーシュよりは彼女に直接訊いた方が効率的だと判断して彼女に的を絞る。どうやらルルーシュは彼女のことを誤魔化したがっているようだから。
「?は要らないな。3日前だ」
少女はそんなスザクの態度に何かを感じ取ったのか不敵な笑みで事実を告げる。
そんな少女の態度がまた気に入らないと思うスザクはつまり、何をしてもこの少女だというだけで気に食わないのだろう。また苛つきの原因がわからないのが余計にスザクの気を立たせる。でも3日ってことは出会ってからそんなに経っていないな、スザクは思った。
もしかしたら最近ルルーシュの調子がおかしかったのは彼女のせいだったのかと思ったのだが。それはそれで面白くないのだがどうやらそれも違ったらしい。・・・っていうかさっきから僕は何が面白くないんだ?別にルルーシュが何してようとそれは彼の勝手で、確かに親友としてはいろいろ話してもらいたいとは思うけど。だからと言ってなんでもかんでも話すのとはまた違うわけで、だけど ―――。
「スザク?おい、」
「うん?何?」
悶々と思考に耽っていたスザクは、しかしルルーシュの声が聞こえてすぐに返事を返す。
「っ・・・いきなり真顔で返事をするな。驚くだろ・・・」
「うん、ごめん。ちょっと考え事してて・・・」
他の声には反応しなかったのにルルーシュに呼ばれた時だけすぐに反応してしまったせいでルルーシュは少し驚いたようだ。だが昔からこの声にはスザクは反射的に反応してしまうのだ。とりあえず何かを誤魔化すようにルルーシュが好きな笑顔で場を取り繕う。この笑顔の時にルルーシュが折れなかったことはないので密かにスザクはこの笑顔を武器にルルーシュに接することがある。そんなスザクの態度にルルーシュは少し詰まって、でも諦めたようにため息を吐いた。
「まぁいい・・・。とりあえずここにいても仕方ないしな。お前たちはデートなんだろ?邪魔しちゃ悪いし、俺たちはもう行くよ」
言うなりルルーシュは今にも帰りそうな態度をとるから、スザクは意味もわからず動揺してしまう。
「別に邪魔ってわけじゃっ!」
邪魔なわけがない。ただでさえ最近はルルーシュとの時間が取れないというのに、せっかく学校以外で会えたのにこのまま帰るだなんて冗談じゃ、・・・あれ?会えたから何だ?何だって言うんだ?考えてみれば僕とユフィは恋人同士と呼ばれる仲で、しかも今はいわゆるデート中ってやつで・・・。言われてみれば確かにここで親友であるルルーシュを引きとめるのはおかしいの、か?でも、だけど、ルルーシュは親友で、それこそ3人でいるのに気兼ねもないような仲で・・・っていうかなんで僕はこんなに必死?別にルルーシュが帰ったところで何も・・・何もないのに、でも、なんだか・・・どうしても引きとめたい・・・このまま別れたくない。

「どう見ても邪魔だな」

なのにまた彼女が余計なことを言うのだ!


なんなんだ!?僕は今ルルーシュと話しているのに、なんで君が返事をするの??
彼女が喋るたびにいらいらが募る気がする。
「別に私たちは邪魔ではないのですが・・・お2人はどうなのですか?」
ここで今までずっと沈黙を保っていたユーフェミアが発言する。
そしてスザクはユーフェミアの言葉に驚きを隠せなかった。
「ふた、り・・・?」
「?どうした?スザク?」
ルルーシュが様子のおかしいスザクに声を掛けるが今度こそスザクには聞こえていなかった。


そうだ・・・

僕が良くてもルルーシュたちにとっては、僕たちが邪魔だってこともあるんだ。

僕はまったくそのことに気が回らなくて――・・・、


スザクはルルーシュが自分たちを迷惑に思う可能性があるというその事実に愕然とした。
「邪魔も何も、俺たちはそういう関係じゃないからな。ただ今日はもう帰るよ。さすがにこの寒空の下長時間いるのはキツいしな」
ルルーシュは時計を見ながらそう話す。
「残念です・・・今度会った時は一緒に遊びましょうね?シーツーさんも」
「ほぉ、ダブルデートというやつか?」
「何がダブルデートだ」
「良いですね!是非今度一緒にデートしましょう。そうだ、コレ―――えと、私のメールアドレスです。良かったらお友達になってくださいね」
そう言って微笑みながらユーフェミアが即製のアドレス紙を渡す。
アドレスを貰った少女はどこか楽しそうにして、
「あぁ分かった。暇が出来たら連絡しよう」
と応えを返していた。
「お前はいつだって暇なんだろ」
「何を言う。今はただ訳ありなだけだ。通常の私は休む暇も無いほど仕事に追われているんだぞ」
「まぁ!そんなにお若いのにもうお仕事をされているんですか?」
「副業みたいなもんだがな。一応肩書は学生だ」
「お前、学生だったのか!?」
「・・・なんだその驚きようは」
「いや、俺はてっきり・・・じゃあ何であんなとこで行き倒れてたんだ?」
「だから訳ありと言っただろう。だがそうだな・・・お前が私のモノになる、ということなら教えてやらんこともないぞ?」
「私のもの??」
ユフィが頭にクエスチョンマークを浮かべる。
「何がお前のものだ。断固拒否する」
ルルーシュはユフィに変なことを教えるなとばかりに彼女の方を睨んでいるけど、
僕はそれどころではなかった。

彼女は今、なんと言った――?

「ふふ、お前のそのプライドの高いところが堪らなく好きだよ。・・・よし、決めた」
「?」
「ルルーシュ、お前はやっぱり私のモノになれ」



いっそ傲慢とも言える彼女の言葉。

しかしそれを理解した途端、

堪えがたい怒りが体を巡った。



「何?」
ルルーシュも先ほどとは違う色を感じたのだろう、戸惑いがちに少女に問い返す。
「だから私のモノになれといったんだ」
少女は先ほどと数分違わない態度で再び繰り返す。
「は、今拒否したばかりだろう。冗談、」
「なものか、私は冗談は好かない」
それ自体冗談だろう。
「まぁ・・・」
ユフィは事の成り行きに呆然としている。
「・・・そう言われて大人しくお前のモノになるとでも思っているのか?」
「思わないな」
「だったら、」
「だから私がお前を落としてやるよ」
「・・・言ってる意味がわからない」
本当に意味がわからない。
「物わかりの悪いやつだな・・・」
「喧嘩でも売っているのか?」
「つまり、私に、お前を、惚れさせてやる、って言ってるんだ」
「馬鹿な、あり得ない」
有り得るはずがない。
「その態度も今のうちだぞ。そうだな、だらだらやっていても仕方がないし・・・期限をつけるということでどうだ?」
「・・・期限?」
「期限だ。私はお前を3カ月以内に落とす。3ヵ月経ってお前が私に惚れていなかったらお前の勝ち、もしそうでなかったなら私の勝ちだ。分かりやすくていいだろう?」
そう言って彼女は不敵に微笑む。
「・・・普通はこう言う時、1ヵ月とか言うもんなんじゃないのか?」
「そこまで軽い男じゃないみたいだからな。安心しろ、高評価だ」
「馬鹿馬鹿しい・・・誰がそんな、」
そうだよ、こんなに馬鹿馬鹿しいことはない。
なのに、
「自信がないのか?」
「・・・何?」
ルルーシュはその高いプライド故に挑発に乗りやすい。
「自分が勝つっていう自信が無いのか?私に惚れないっていう自信が。もしかして脈ありなのか?」
だからそんな言葉を掛ければ、
「そんな訳あるか!よし、いいだろう。その勝負受けて立つ」
あぁほら・・・、
「契約、成立だな?」
そう言って少女はニヤリと笑う。
そして少女の笑みを受けてルルーシュがやられたとばかりに眉を下げ、
なんのメリットがある契約なんだか、と呟く。
けれどその表情は苦々しくもどこか優しさが滲み出るような色も含んでいて、


それを見た僕はようやく自覚した。


「こんな美少女にアタックされているんだ。男冥利に尽きるってもんだろう?」
ルルーシュは呆れたとばかりに肩をすくめる。

理由なんて、何故かなんてどうでもいい。

「だからルルーシュ、覚悟しておけよ」
「ん?」

ただ――、

「私は絶対に、3ヵ月でお前を落としてやるからな」

そう言って高らかに宣言をした少女の心から楽しげな笑み。






僕はこの女が嫌いだ。








+++

なんかどんどん枢木さん家の息子さんが黒く・・というか最悪の男に。
C.Cが忙しいっていったのは嘘です。仕事はしていますが忙しいってほどではありません。
そこら辺はルルーシュ視点にてやりたいと思います。
ルルーシュ視点と言っても舞台裏みたいな話であまり深くはやらないのですが;
しかし付き合ってもいないのに修羅場・・・
それもこれも全部クルルギが・・・おのれクルルギ。ルルーシュに代わって成敗してくれるわ。
後日細かい補正入れますがとりあえずここで一旦up・・・
※8月25日に校正完了(あまり変わってませんが)

>>back