第7話で有りがちな展開。
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すみません誰かいませんか!?すみませんっ!!
はいはい、ちょっと待ってくださいねー。はい、なんでしょう?あれ?あなたさっきの・・・。
あのっ!!先ほど運ばれてきたルルーシュ、ルルーシュ・ランぺルージさんいますよね?!
はい?いますけどそれが何か?
いつから、いつから通ってますか!?
ランぺルージさんですか?ええと、大体3ヵ月くらい前からですね。どうかされましたか、ってちょっとあなた!廊下は走らないでください!他の患者さんもいらっしゃるんですよー!?
・・・って、あれはだめだわ聞こえてないわ。まったく・・・いったい何だって言うのかしら・・・
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501号室。ルルーシュ・ランペルージ。
病院や建造物独特の4の字を使わないこの階は4階にあって5階の表示がされる。
その5階の一角、(とは言ってもこの階にはこの1室しかないのだけれど)そこに見える白い病室の扉を見つけるなりスザクは、深呼吸を二度、三度と繰り返し、そして最後にゆったりと息を吸い込むと意を決してその扉に手を掛けた。
扉の向こうにはこちらに背を向けてベッドサイドの椅子へ腰掛けるロイドがいた。
ロイドはこちらを見ない。
けれど構わずスザクは歩みを進めた。
「ロイド、さん・・・」
「・・・また君?言ったよね?二度と僕たちの前に姿を見せるな、って」
ロイドはやはりこちらを見ない。
けれど今はそんなことはどうでも良かった。
「ロイドさん」
「なに?」
「知っていましたね?」
「何を?」
「とぼけないで、ください」
互いの間に沈黙が落ちる。
病人に気疲れさせないためなのかこの部屋には時計がない。針の音が聞こえず丁度皆の活動も休止させているはずのこの時間帯、まさにこの部屋は沈黙に支配されていた。
一分、二分・・・そしてスザクの感覚が五分程を示した頃だったろうか。
やがて根負けしたようにロイドがため息を吐いた。
「・・・はぁ。とりあえずここじゃルルーシュの妨げになる。外に行って話そう」
ロイドは何やら紙らしきものを千切ってさらさらと何かを書き綴ると隣りのサイドテーブルに置いて席を立った。
ロイドが場所を移動したことによって今まで隠れていた彼女の顔が現れる。スザクは今更ながらにルルーシュがそこにいることを実感して。(彼女の病室なんだから彼女がここにいるのは当たり前なんだが)
なんだか久しぶりに見えるその姿にどうしようもない気持ちが込み上げてくるのを感じたがスザクはなんとか、このままずっとルルーシュの傍にいてしまいたい気持ちを寸でで押し留めるとロイドに遅れて病室を後にした。
「4ヵ月になる。もうすぐ5カ月だよ」
「・・・俺の子、ですね?」
「自覚したのは3カ月くらい前だったのかな。泣きながら僕のところに来てね、どうしようどうしようと半ばパニックに陥っていた。とりあえずそんなルルーシュを落ち着かせて。話を聞くとどうやら妊娠したかもしれないようなことを言ってまた泣く。ちゃんと調べてみたのかと聞いたら2ヵ月以上生理が来なくて悩んでいて。それで意を決して検査薬で調べてみたら、・・・陽性だったらしい。混乱したまま、でも怖くなったんだろうね、僕のところに来た。・・・夜中にね、ここまであの子は歩いて来たんだよ?どんなにか不安だったろうに、怖かったろうに。それでも君のところにだけは行けなくて、僕のところに来た」
「次の日にね、僕が付き添ってここの病院に来たんだ。最初ルルーシュは怖がってね。でもあの子は強い子だから。無理をさせないでゆっくり待てば自分から行くと言い出した」
「結果は見ての通りだ。2ヵ月と半月だって言われたよ。・・・中絶ってね、3カ月をこえると母子に負担が掛かるんだよ。だからすぐに決断しなければならなかった」
産むか、―――堕ろすか。
「どちらにしても残酷な決断だ」
ロイドは窓の外をじっと見つめながら淡々と話していく。
「・・・ルルーシュは何て?」
「何も言えなくなっていたよ」
「っ・・・」
「放心状態になっていてね。・・・でも、しばらくして言ったんだあの子は。静かに。聞こえるか分からないくらいの声で本当に小さかったけれど、確かに、」
産みたい、と。
「・・・ルルーシュ」
「それを聞いた瞬間に、僕は産みなさいと言っていた。ルルーシュは驚いていたよ。きっと反対されると思っていたんだね。でも僕はルルーシュが好きで大切に思っていたから、確かに僕の子でないのは少し残念だったけれど。ルルーシュの子であるなら僕の子も同然だと思った。ルルーシュが一人で産むのなら、僕がその子の父親になろうって。決心した。絶対、・・・絶対君にだけは渡すものかって、そう思った」
「・・・ろい、」
「だってそうだろ?ルルーシュがこんなに一人で悩んで、苦しんでいる最中(さなか)に君はと言えば彼女とデートやら遊びやら。ルルーシュを呼び出したかと思えばさせることは家事とセックス。ルルーシュは君の召使?・・・召使だってもっと待遇はいいだろうさ。僕は怒りを通り越して遣る瀬無い気持ちになったよ・・・」
齎される断罪の響き。
そして初めて聞かされるルルーシュのその姿に、
スザクはただ目を閉じて聞くことしか出来ない。
「だけどね・・・。ルルーシュがね、笑うんだ。悲しそうに、嬉しそうに。本当に微かな顔の動きだったけれど・・・君を想ってね、ただ笑うんだ・・・」
「っ・・・・・・ルルー、シュ、」
「その瞬間わかった。僕じゃ駄目なのだと。子どもの父親にはなれても、彼女の、ルルーシュの夫にはなれないのだと・・・。あの子の悲しみにも喜びにも君がいるんだって、思い知った。・・・まったく」
一体君のどこがそんなにいいんだろうね。
そう言って苦く笑うロイドの姿に自分でも同感だと思った。
彼女は、ルルーシュは一体自分のどこが好きなんだろう。
何故こんなにもどうしようもなく愚かな自分を愛してくれるのだろう。
あんな、無償の愛で・・・柔らかくすべてを包み込むような愛で。
スザクが欲しくて欲しくて堪らなかったそれで・・・
スザクを包んでくれるのだろう・・・
「そんな矢先にさ、店に君が現れてさ。しかも彼女連れ?怒鳴り散らしてさ・・・おまけにふざけるなだって?・・・お前こそふざけるな、だ」
「っ・・・」
「おまけに血を見るのが苦手な彼女に向かってあの仕打ち。打ちつけた机だってもう使い物にならないしさ。この馬鹿力が。きっと君はルルーシュが血を見るのも苦手だって知らないんだろうけど」
「・・・え?」
発せられた言葉が一瞬理解出来なかった。
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「・・・血が、苦手?ルルーシュが?でも、だって、」
スザクが部活で怪我をした時にその手当てをしてくれていたのはすべてルルーシュだ。
怪我というからには血だってそれなりに出ていて。
だけどルルーシュは一度だってそんな素振りは・・・、
「ほら、気付いていない。ルルーシュが震える手を必死に抑え込んで、それでも君の手当てをしていたのだって君は微塵も気が付かないんだ」
そんな、だって・・・いや違う。違うだろ、思い出せ。一度だけ、一度だけルルーシュは血を怖がったんじゃないか?ルルーシュが料理をしてた時、偶々手伝った自分が包丁で手を切って。その時隣りにいたルルーシュはどんな顔をしてた?顔を真っ青に・・・、
あれは怯えた顔ではなかったか・・・?
「・・・ぁ、」
「僕の怒りがどれほどのものか少しはわかった?」
「っ・・・ロイドさ、ルル、」
「なーんて、わからないのも心底腹が立つけどね、・・・簡単にわかられてもそれはそれで腹が立つ」
「・・・すみませ、」
「僕には謝らなくていいよ。謝られても余計に腹が立つだけだからね。謝る相手は他にいるだろ」
「え?・・・あ、でも、」
いいのだろうか・・・?
ルルーシュに会っても?
「いいも何も君、何のために戻ってきたの?ただ事実確認するためだけ?あぁ自分には子供がいるんだって?それならもう君には用はないからさっさと帰りなよ」
スザクの戸惑いが伝わったのだろう、そんなスザクにロイドは呆れたような視線を向けるとさっさと踵を返し、話し込んでいた屋上の扉を閉めようとする。
スザクを置いて―――、
「わあぁ!ちょ、ちょっと待ってくださ、違います違います!違いますから閉め出さないでください!って嘘!?ほんとに開かなっ!?・・・じゃなくてっ!俺はルルーシュに謝ろうと思って、でもそれだけじゃなくて伝えたいこともあって、それで、それで今まで傷つけた以上にルルーシュを幸せにっ、」
どうやって屋上の鍵など手に入れたのだろうか?そんな疑問が脳裏を掠めながらも夢中でロイドに言い募るスザクに、ロイドも仕方なさそうに扉を開けてくれた。良かった・・・どうやら病院の屋上で餓死する心配はなくなったようだ・・・。
「もううるさいなぁ。わかったからそんなに大きな声で騒がないの。他の患者の迷惑でしょ」
「え、あ、すみませ、って痛っ!」
「だから謝るなって言ってんでしょうがこの鳥頭が!」
「あ、すみま、あっ!!」
「・・・君ねぇ」
「うぅ・・・」
「はぁ、もういいよ・・・さっき言ったことね」
「・・・はい?」
「僕が結婚するとかルルーシュが妻だとか」
「あ、あぁはい!」
そうだそのこともあったんだ。
さっきは結婚以前にルルーシュに会うことすら出来なくなってすっかり忘れていたけど、確かにロイドはルルーシュと結婚するって言ったのだ。
「あれ半分嘘だから」
もう既に渡すつもりはさらさらないのだけど、あんなことを言っていたロイドがこの状態でスザクとルルーシュを会わせるというのはいいものなのだろうか?そんなことを考えていたスザクは呆気らかんと為されたその言葉に、
「・・・・・・はぃい?」
たっぷりと30秒掛けた後なんとも間抜けた声を返すことしか出来なかった。
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