第6話で認識編。




+++


「・・・はい?」


「あ、ついでにもう二度とルルーシュの前に現れないでくれると嬉しい。というか二度とその姿を見せるな」
「っ、なんであなたにそんなこと言われなくちゃならないんです?俺は、俺とルルーシュはっ、」
「うん。おおよその事情は聞いてるよ」
「っ!なんであなたが・・・、」
「なんで?だって僕はルルーシュの夫だもの」
「・・・・・・は?」
「というか夫候補?まだ夫ではないんだけどね。近いうちに結婚するつもりだからもう夫って言ってもいいでしょ」
「けっ、こん?ルルーシュが?あなたと・・・?」
「そう。僕はルルーシュの夫で、ルルーシュは僕の妻だ」
「な、んで・・・?だって、俺とルルーシュは、」
「付き合ってて別れたんでしょ?問題ないじゃない」


まぁあれで付き合いって言えるのかは謎だけど、男は話すがスザクには聞こえない。



ルルーシュがこの男と結婚する?
俺ではなくてこの目の前の男と?
もう俺のものにはならない?


そんな・・・そんなのは、



「・・・そ、んなの俺は認めない!」



「認めない?君になんの権利があってそんなことをいうのかな?ルルーシュを散々傷つけておいて」
「きず・・・?」
「傷以外の何物でもないでしょ。あぁ、傷どころか大怪我かな。あんな5年間も囲うような真似しておいて、よくあんな状態で放り出せたもんだよ」
「放り・・・?だっ、て、別れ話はルルーシュから、」
「本意だったと思う?本当にルルーシュが傷ついていないとでも思った?だとしたら神経疑うね」
「っ・・・、」


そうだ・・・
自分は知っていたのに・・・
ルルーシュがスザクを愛していてくれたことを・・・
なのに、なんの躊躇いもなくスザクはルルーシュを切り捨てた。
引き留めることさえせずに、平然と・・・



「君がルルーシュをどう思ってたかは知らないけど、僕から見たらルルーシュは、少しばかり抜けてるけれど芯が強くて意地っ張りで強がりで、でも繊細で不器用で、本当は誰よりも優しい優しい、思いやりのある女の子だ。綺麗な可愛い女の子だ。そんな女の子相手にあれだけの仕打ちをした君を僕が許せると思う?」
「ぁ・・・、」
「ね?わかるでしょ?僕の気持ち」
「あ、で、も」
「わかったらさっさとここから帰れ。お前の顔は見たくない」
「るる、」
「その名も呼ぶな。もう僕のものだ。二度とお前には会わせない」




ルルーシュとはもう二度と会えない?

なんで?



なんで俺はもうルルーシュに会えないんだ・・・?





俺がルルーシュを傷つけたから?
ルルーシュを捨てたから?
でも、だって、捨てたのは、
捨てられたのは俺なのに、
なのになんで俺が会えない?




俺だってルルーシュに捨てられて傷ついたのに。



「でも君はそれ以上にルルーシュを傷つけ続けてきたんだろ?」



そのせいで捨てられたからってルルーシュがこれまで受けてきた傷の何万分の一の痛みなんだい?










+++



何万分の一・・・


俺はそんなにルルーシュを傷つけてきたのだろうか・・・

この痛みの何倍もの痛みをルルーシュに・・・?
そんな仕打ちをルルーシュにし続けてきた?
そんなこと、
俺はそんなこと、
そんなこと・・・



・・・し続けてきたんだ。



俺は何も、全く何も気付かずに、
ただルルーシュの優しさに甘え続けてきた。
ルルーシュはいつだってそんな痛みなど出さなかったから。
微塵も、微塵も出さずにただスザクの求めるままにすべてを差し出してくれたから。
そして俺は、差し出されたその優しさを、心を、ただズタズタにして返すことしか出来なかったのだ。


スザクは今になってようやく自分がルルーシュにしてきたことがどれほどひどいことだったのかを理解した。



スザクを好きだと言ったルルーシュ。
2番でもいいと言ったルルーシュ。
スザクが望めばすぐにはわからないような方法で、
不器用なやり方でスザクに優しさを与え続けてくれたルルーシュ。



いなくなってから、
いつの間にか当たり前のように根付いていたルルーシュの優しさがどれほど尊いことなのかを思い知った。



ねえ?



2番だと言われてどう思った?
自分が差し出した優しさを当たり前のように享受されてどう思った?
ユーフェミアと付き合うのだと嬉しそうに報告されてどう思った?
別れようと言ったとき、平然と了承した俺を見てどう思った?




俺はね、




今すごく痛いよ。






かつて俺を好きだと言ってくれた君が、
俺じゃない人を1番に思ってるのだと言われて、
俺が、1番好きな君が、
俺を1番ではないのだと思わされて、
ただそれだけで、
どうしようもないくらいに痛いよ。



何よりも、



君にもう二度と会う権利がないことが、
君にもう二度と会えないのだということが何よりも痛くて辛いよ。






今更、君の痛みが分かっただなんて、


もう遅過ぎて、


どうしたらいいのかわからないんだルルーシュ・・・






たすけてよルルーシュ・・・・


いつもみたいに優しく俺を抱きしめて、


俺を救って・・・?








お願い・・・








+++




どこをどうやって歩いてきたのか、気が付けば病院の外にいた。

ルルーシュを失った痛みが今更強く押し寄せてきて、スザクは蹲った。


悲しかった。
辛かった。
苦しかった。
失ったものがあまりにも大きすぎて。


前に失った時は耐えられた。



あの時は自覚がなかったそれ以上に、会おうと思えば会える、そんな気持ちが強かったから。
だから耐えられた。
別れてしまった後だけど、ルルーシュなら呼べばまた来てくれるような気がしてたから。


だからこそ会えないのだと悟った時、スザクはただ泣くしかなかった。


けれどそれでもまだ希望はあったのだ。
もしかしたらまたメールアドレスは繋がるかもしれないしばったり近所で出くわすかもしれない。
そんな都合のいい考えがあったから。だから耐えられた。



だけど今度は違う。



たとえルルーシュの居場所がわかったとして、
会おうと思えば会える距離にいたのだとしても、
スザク自身が自分でそれを、会いたいという欲求を抑止し続けなければならないのだ。



だってルルーシュは、



ようやく自分という存在から解放されて、
ようやく今幸せになろうとしている。



散々ルルーシュを傷つけてきたスザクにはそれを邪魔する権利がなくて。
ルルーシュの幸せをこれ以上邪魔していいはずがなかった。



だからスザクは耐えなければいけない。
スザクにはそうしなければいけない義務があった。



だってルルーシュは、ずっとこの痛みに耐えてきたのだから。
スザクが今、痛くて痛くてどうしようもないこの痛みを、



5年間も耐え抜いてきたのだから。



だから自分は、
耐えないと、


ルルーシュのために、
ルルーシュが幸せになるために、
耐えないと、そう思うのに・・・






あぁだけどどうしようもなく辛いのだ。

ルルーシュに会いたいのだ。






後ろを振り返ると、見える病院の一角。


あのどこかにはルルーシュがいるのだと思うと泣く資格もないのに涙が溢れてきて、
スザクは自分が耐え切れなくなる前にどうにかここから立ち去ろうと、
未練がましくも振り返っていた体を前に向けようとしたけれど、



最後の最後、



入ってきたその文字の羅列に、







考えるよりも先に足が走り出していた。








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