5話です。
前哨戦です。
そして自覚へ。
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違う、
違うんだ・・・
本当は、本当はわかってた・・・。
どうしてずっと待ち望んでいたユーフェミアとの同棲が少しも輝いて見えないのか。
どうして暮らせば暮らすほどにユーフェミアとの生活に違和感を覚えてしまうのか。
どうして届かないとわかっているメールを送り続け、
どうして意味のなくなったメールアドレスを後生大事に取っておいたのか。
どうして部屋で目覚める度に誰かの面影を探してしまうのか。
どうしてユーフェミアの同棲の誘いを断り続けていたのか。
どうして自分から別れを切り出さなかったのか。
どうしてルルーシュを見ることを避けたのか。
どうしてどうしてどうして・・・、
どうして―――?
好きだからに決まってるじゃないか・・・
ルルーシュのいる空間が好きだった。
―――だってそこは本当に陽だまりのように暖かった。
ルルーシュがいる日常が好きだった。
―――当たり前に根付いたそれは無いと違和感を齎すほど。
ルルーシュに会いたくて堪らなかった。
―――届かないとわかっているメールアドレスを大事に取っておく理由などそれ以外にあるものか。
ルルーシュとの生活が大事だった。
―――だからそれを壊すユーフェミアの誘いなど受けられるはずがなかった。
ルルーシュが誰よりも必要だった。
―――だって何の見返りもなくスザクに優しくしてくれたのは彼女だけだ。
別れようなんて考えもしなかった。
―――失うなんて有り得ないと思っていた。
何よりもルルーシュが好きだった。
―――だからルルーシュが笑ったあの日から必死で彼女を見ないようにした。
見たら後戻りが出来ないような気がしたから・・・
そうして誤魔化して誤魔化して誤魔化して経過した5年間は、
ではスザクを救ったかと言うと、
ルルーシュがいなくなってからわずか2ヵ月間でスザクに絶望を見せてくれた。
ルルーシュがどこにもいなかった。
いつもいつもスザクを無条件で迎え入れてくれる温かい腕だったのに。
気付かずにただ目の前に差し出された手を取ってその白く美しい手に幸福を手に入れた気になって。
でもその先にスザクの求めるものは何もなかった。
いつもスザクを後ろから支えていてくれた手こそが本当に欲しいものだったなんて思いもしなかったのだ。
欲しいと渇望していたものは既に手の中にあっただなんて!
結局スザクは最後まで気付くことが出来ずに。
気付いた時には既に遅くて、
慌てて探したけれどもうどこにも無くて。
でも恋しくて、恋しくて・・・
彼女の面影になるものを探したけれど写真や物どころか、
髪の毛一本すら彼女の痕跡になるものなどなかった。
ユーフェミアにルルーシュを重ねて見てもそれはスザクに更なる餓えを齎すだけで。
ルルーシュはスザクのことは何でも知っている癖に、
スザクからは何もかも持って行ってしまった癖に、
スザクには何にも残していってくれなかった。
唯一残されたものは、
届かなくなってしまった電子記号の羅列と、
別れようと切り出されたあの日に、
最後に作っていってくれたご飯だけで。
下らないプライドや、
臆病な心のせいで、
心のどこかでわかっていたはずのその手を放し、
そして永遠に失ってしまったのだ、と、
わかったときには既に遅くて。
しばらく経って冷凍庫を開けた時に、
いつものところにちょこん、と。
冷凍のおにぎりがあるのを見て、
スザクはただひとり泣き続けるしかなかった。
+++
「特に異常は見当たりませんでした。ただの貧血でしょう。とりあえず点滴を打っていますがご自宅では栄養面に注意して上げてください」
「わかりました。ありがとうございます」
ルルーシュが倒れてすぐに病院に運んだ。
運んだのは先ほどいた店員で男はロイド・アスプルンドと名乗った。あの店のマスターらしい。
男はルルーシュが崩れ落ちるやいなやすぐにルルーシュの体を抱きかかえて床に倒れるのを防ぐと、そのままルルーシュを抱きかかえてレジの所にあったキーらしきものを口で銜えそのまま外へと駆けていった。
スザクはその様子を頭のどこかで認識するなり無意識にロイドの後に続いていた。
車のところで鍵がうまく開かずに苦戦しているロイドの口からキーを奪ってドアを開ける。
ロイドはそんなスザクを一瞥し、しかしすぐにルルーシュに意識を戻すと後部座席にルルーシュを乗せて運転席へとついた。スザクはその隙に車の後ろ、ルルーシュのいるところに入り込むなりルルーシュの頭を自分の膝に乗せて車の発進を待った。
ロイドはそんなスザクを見て何か言いたさげに、しかし今はルルーシュが先決とばかりに少し開いた口をきゅっと九の字に結ぶと何も言わずに運転を始めた。
病院につくとルルーシュはすぐに検査を受けた。
ロイドやスザク達はその検査室には入れなかったために待合室で待っていたが、しばらくもしないうちに女医らしき人が出てきて問題ないとのことを教えてくれた。
その言葉にスザクとユーフェミア、それからロイドという青年はほっと胸を撫で下ろす。
医者が去って、問題ないとは言われたもののこの目で無事を確かめたいスザクは院室に入ろうとして、
―――しかし阻まれた。
「枢木君、と言ったかな?」
ロイドと名乗った男によって。
名前を尋ねる割に目の前の男の口調は欠片も確認の意を含んでいなかった。
スザクはそれを怪訝に思いながらも聞かれたからには答えるべきだろうと頷いて、
「ルルーシュは聞いての通り問題はないとのことだよ」
けれど案の定スザクの頷きなど構わずに話し始めた男の続く第二声は、
「だから君は僕に一発殴られてからルルーシュが目を覚ます前にここから立ち去ってくれないかな?」
そんなものだった。
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