3話。
おーろーかーもーのー・・・が往くの巻。
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ユーフェミアからОKを貰ったのは大学に入ってからわずか1ヵ月後のことだった。
高校を卒業すると進学しなかったルルーシュに対しスザクとユーフェミアは同じ大学へ入学した。
幸運にも高校の時とは違ってスザクとユーフェミアは同じクラスでもあって、今まで以上に共に過ごすことの多くなった2人の時間が功を奏したのか、ユーフェミアは高校時代一度も頷くことのなかったスザクの気持ちに遂に応えたのだった。
3年越しの努力が実を結んだ瞬間であった。
スザクは喜んだ。当然である。
念願のユーフェミアが、女性関係が激しく経験も多かったスザクにとって肉体関係を除いて付き合いたいと思った初めての女性、いやもしかしたら初恋かもしれない女性が手に入ったのだ。
スザクはそのことを嬉しそうに周りに報告をした。
それはずっと身体の関係のあったルルーシュにも同じことで。
そんなスザクにルルーシュは良かったなと、おめでとうと言ってくれた。笑顔で。
いつもはルルーシュの顔なんて気にならなかった。
だけどその時だけは妙にびっくりして。
何故だろう。考えて、考えて・・・。
三日後にようやくわかった。
スザクは今までルルーシュの笑顔を見たことがなかった。
そのことにようやく気が付いた。
ユーフェミアと付き合うようになって、スザクはしかしルルーシュと別れることもしなかった。
勿論ユーフェミアと付き合っているのだから呼び出す回数は減ったが、しかしなんとなく続いていた関係を別に壊す必要もないかと今まで通りルルーシュに接していた。
ルルーシュはスザクがユーフェミアと付き合うようになってからもスザクが連絡をすればすぐに来た。
便利だなぁと何の気なしに思って。
でもただそれだけで。
そんな何とも言えない関係がようやく終わりを見せたのは、スザクが大学4年に進学した時だった。
別れようと言ってきたルルーシュにスザクはいいよとだけ返したのだ。
昔ならいざ知らず、今はユーフェミアという立派な彼女がいるのだからルルーシュはもう必要なかった。
ルルーシュが何を思って今更別れようなんて言い出したのかはどうでもいいことであったし仮にルルーシュと別れたとしてもなんら問題はないのだから。
ルルーシュが言う言葉を特に追及することもなくただ頷いた。
・・・それだけのこと。
別れようなんて言われたけれど。
スザクにとってルルーシュは付き合っているというよりは、あの時ルルーシュは否定したけれどやっぱりセックスフレンドのようなものだった。だからルルーシュの別れ話に妙な違和感は覚えたものの特に何の躊躇いもなく首を縦に振っていたのだ。
唯一アレ?と思ったのは。
ルルーシュに送ったメールが、送信できません、と画面に出た時だった。
何でだろう?と考えてからようやくスザクは別れた男のメールは受け取らないよなぁ、と。
よくわからない納得をして。
あぁやっぱり自分たちは付き合っていて、そして別れたのだなぁと実感したのだった。
でもやっぱりそれだけのことだった。
ルルーシュとのことを清算したスザクは今度こそユーフェミア一筋になった。
考えてみればあれほど二股どころかあちらこちらで遊び歩いていた自分がここ5年間、ずっとルルーシュとユーフェミアだけだったのだと思ってスザクは今更ながらに驚いた。
これもユーフェミアのお陰かな、スザクは思った。
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ルルーシュと別れてから1週間、スザクはユーフェミアと暮らし始めた。
本当は今までも一緒に暮らそうかという話があったのだがルルーシュがいるために出来なかったのだ。
だがルルーシュと別れた今、ルルーシュがここに来ることはもうない。
ようやく何の気兼ねもなくユーフェミアと同棲できる、そんなことを思った。
ユーフェミアよりもルルーシュを優先していたことには気付かない振りをした。
そうして暮らし始めて、まず感じたのは違和感であった。
ユーフェミアは料理が出来なかった。
当たり前だ。ユーフェミアは日本でも屈指の大企業であるところのお嬢様だった。
料理どころか卵の割り方さえ知らない。
スザクが料理をする隣りで卵をカンカンと弄んでいるユーフェミアは可愛かったがただ漠然と、
もうあの卵焼きは食べれないのか、そう思った。
ユーフェミアは洗濯も出来なかった。
彼女にとって衣服とは洗濯するものではなく洗濯されて出てくるものだった。
さすがにこれは頂けなかったスザクはユーフェミアに洗濯機の使い方を教えた。
ここに洗濯物を入れて。そうそう、それでここに洗剤。それから蓋をしてスイッチ。うまいうまい。
ユーフェミアは初めて行うそれを大層喜んだ。
そうして次の日に一人で洗濯してみたのだと、満面の笑みで差し出されたそれらは、
種類など関係無しにいっしょくたにされて洗濯機の中に放置された衣服達だった。
ユーフェミアは細かい気遣いが出来なかった。
常に世界の中心にいた彼女は気遣う必要などなく気遣われる存在であって。
また他者もそれを良しとしてきたばかりであるから博愛は持ってもそれは強者の立場からのものである彼女に対等な存在であるスザクへの気遣いはいずれにせよ的外れなものばかりであった。
スザクの精神状態が良好な時は良かった。
彼女がどんなことをしても受け止める自信はあったしそんな彼女に惹かれたのも事実であったから。
けれどそれが四六時中続くとなると別であった。
静かにしてほしい時、一人になりたい時、ユーフェミアはお構いなしだった。
彼女は自分がしたい時にするだけでそれが当たり前なのだ。
そんなスザクとユーフェミアの育った環境の違いはスザクの意思がどうであれ、着実にスザクの精神を蝕んでいった。
与え続けることの難しさを、そして尊さを知った。
ユーフェミアとのセックスは悪くなかった。
身体を通して伝わる熱は確かにスザクを快楽へと導いてくれたし相性も悪くはなかった。
だから最中に背中に縋る手に、彼女は決してスザクに縋らなかったなと誰かの面影を思い出したり、終わりが近づくと必ず頭を撫でてくれたあの手がないことの寂しさには目を瞑った。
まどろむ朝がなくなったのはいつからだったろう。
暮らせば暮らすほど、よく分らない違和感に苛まれていった。
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ルルーシュと別れてから2週間。
ルルーシュにメールを送ったが送信不可であった。
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それから3日目。
再びルルーシュにメールを送ったがやはり、送信不可であった。
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5日目。
送信不可である。
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6日目。
送信不可。
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7日後、送信不可。
8日後、送信不可。
9日後。送信不可。
送信不可。
送信不可。
送信不可・・・
このままでは拉致が明かないとスザクはマンションを駆け出しルルーシュの家に行こうとして、
ルルーシュの家を知らないことに愕然とした。
もう会えない・・・?
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