にわにはにわにわとりが・・・2話です。
副題はルルーシュとスザクのらぶらぶ生活。




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かくしてルルーシュの具合はよかったわけである。
告白の時は迷わずに頷いていたからもしかして地味そうに見えて案外慣れているのかと思ったのだが初めて抱いた時にそれが思い違いであることがわかった。
ルルーシュは正真正銘の処女であった。
こちらの愛撫に対して随分と過敏に反応してくれてはいたが仕草の端々に見られる反応は明らかに処女のそれであったし、後始末の時にしっかりとその証が残っていたのでそれは疑いようもなかった。
ルルーシュは最中それを隠したがっていたようだったが、(いや隠すというよりも極力気付かれないように振る舞っていた)しかしそこらの男ならともかく女慣れしているスザクにはバレバレの態度であった。


けどそんなルルーシュが少しだけ可愛いと思った。


ルルーシュは最中に電気を点けることを嫌がった。
スザクとしてはセックスの時大事なのは身体だと思っているし、顔の良い女ならともかくルルーシュは別に特筆するような容姿でもなかったので変に顔を見るよりは見えない方が興奮するかと思ってルルーシュの好きなようにさせていた。
大抵のことに従順なルルーシュが唯一意思表示をしたというのもあった。


少しくらいは大切にしてやろう、そんなことを思っていた。


ルルーシュは料理が得意だった。
ある土曜日(ルルーシュを呼ぶのは大抵金曜日の夜と決まっていた)スザクにしては珍しく部活がなくて学校も休みである今日、ゆっくりしようと思っていた所にルルーシュが珍しく寝室に戻ってきたのだ。
どうやらルルーシュはメモ帳を忘れたようでそれはスザクの寝ていたベッドの脇に入り込んでいた。
スザクがそれを見つけた時はルルーシュが戻ってくる前で、ある1ページを上にして落ちていたそれは特に見るつもりがなくても自然視界に入ってきた。
ふと視界に入ってきた単語は胡瓜とかトマトとか豚胸とか、そんなものだった。
スザクがそれを読んでいるとルルーシュが戻ってきて軽く部屋を見回した後にスザクの持っているそれに気付いたのかこちらに近づいてきた。
スザクはそれをルルーシュに手渡しながら、


「ルルーシュって料理出来るの?」


掛けられた言葉にルルーシュはメモ帳を仕舞いながらあぁとだけ答える。
誇張も謙遜もないそれが少しだけ気に入って今日のごはん何か作ってくれない?とほんの少し、冗談を込めて言ったみたのだ。
するとルルーシュは何も言わずにこちらを一瞥してそれから部屋を出て行ってしまった。
その態度に何か一言くらいあってもいいんじゃないか、とスザクは少し面白くない気持ちになったがそれもすぐに気にならなくなって再びベッドに倒れ込んだのだった。


再び部屋がノックされたのはそれからしばらく経ってのことだ。


スザクは寝るともなしにベッドでゴロゴロしていたので突然響いたノックの音に驚いた。
てっきりもう帰ったのだと思っていたのだ。(別にいて欲しいわけではなかったが)
スザクは一体まだ何の用だと思って訝しげに扉を開けると遠くの方でバタンと音がして。
代わりにやってくるのは食卓の香り。
その匂いに虚をつかれ、慌ててリビングに駆け込んでみればスザクは今度こそ本気で驚いた。
白いご飯にほうれん草の味噌汁。
香ばしい匂いのする鮭は見れば綺麗な紅橙で。
その隣りにはふっくらと、絶妙な焼き加減の卵焼きが並んでいた。
さらにその隣りには、


食材は結構あったから勝手に使った。
米は3合炊いてある。
冷凍したご飯を食べるか分からなかったから冷凍はしていない。
大丈夫なら冷凍しろ。


さっき見たあの白いメモのだろう切れ端に素っ気なく書かれていた。
ルルーシュは既に居らずただ朝食と白い1枚のメモだけがそこにある。
それになんとなく。なんとなく驚いて。
とりあえず作ってくれたのだからと食卓について一口食べてみると、美味しかった。


それ以来セックス以外でも腹が空いた時は呼ぶようになった。


ルルーシュは器用でもあった。
いつものようにルルーシュに夕食を作ってもらった夜、スザクは学生服(学ラン)のボタンが取れていたのに気がついた。
母親がいないスザクは今まで大抵のことは自分でやってきてボタンの付け替えくらいは一人でも出来たのだが何となくその日は少し甘えたくなってルルーシュにお願いしたのだ。
ルルーシュはスザクに裁縫道具の在りかを聞くとその後は何も言わずに道具と予備のボタンを取り出して細い針に若干太めの紺糸を苦も無く通すと手慣れた手つきでボタンを衣に縫い付けていった。
その指の動きはとても繊細で。何度も何度も針が裏と表を行き来するその様は、その白い指先も相まってとても美しく感じられた。
スザクはただ何をするでもなくずっとその様を見続けた。
そうして終わってみればルルーシュはどうやら解けかけていた他のすべてのボタンを付け替えてくれたようで。


これでしばらくはボタンが取れることはないな、と少しだけ残念に思った。


ルルーシュは手当もうまかった。
スザクは部活が運動部ということもあってよく怪我をすることが多かったのだが、その日の怪我は少し違っていた。
昇降口の所にルルーシュがいたのだ。
ルルーシュは何やら誰かと話している様子だったのだが(相手はよく見えなかった)なんとなくスザクはその姿に目を奪われてしまい、いつもなら避けられて当然の突きをよりにもよって背中に喰らってしまったのだ。不名誉。
しかも当たり所が背骨。少し(やせ我慢をしなければかなり)痛いその怪我は友人にこそ何でもないと言ったものの帰ってきてみれば物の見事に腫れていて。
むしろ病院に行くべきか?と少し考えたところで唯でさえ頑丈なスザクは端から病院になど行くつもりなどなかった。
せめて湿布くらいは貼っておくかとクローゼットの奥から取り出した救急箱(お徳用セットで1980円)を取り出すも、その中に湿布がないことを悟った時点で可哀相な背骨の扱いは決定したようなものである。
風呂上がりに背中に燻った熱を誤魔化すようにベランダに出て。
手すりに手を置きながら空が綺麗だなぁなんて何気なく下に視線をやったところで、
―――驚いた。


ルルーシュがいたのだ。


ルルーシュは何をしているのかマンション前の道端を何度も行き来しては手に持っている袋を揺らしていた。(ちなみにスザクの部屋は最上階の14階)
スザクはこんな時間にどうしたのかと思って大声でルルーシュに声を掛けようとして、
―――やめた。
今が夜であることもあったが、何よりもここでスザクが声を掛けたらルルーシュが逃げるような気がしたのだ。
スザクはベランダから室内に戻ると何も着ていなかった上半身に白いシャツを羽織って、下は先から来ていたジーンズのままにエントランスへと向かった。
エレベータの扉が開くのを待ち、乗り込んで、着くなりスザクは外へと向かった。


かくしてルルーシュは其処にいた。


スザクがルルーシュに声を掛けるとルルーシュは一瞬びくんと体を震わせ、おそるおそるスザクの方を振り返る。
そしてスザクを認めるなり固まってしまった。
スザクはそんなルルーシュをらしくないな?と不思議に思って近づくとルルーシュが持っている袋を覗き込んだ。
「・・・あれ?」
そこには湿布は勿論のこと消毒液を始めとする様々な外用薬が並んでいた。
驚いてルルーシュを見るとルルーシュは顔を逸らして小さな声で怪我してるんだろ?と。
その言葉にスザクは更に驚いてどうして?と口に出せば、部活中の動きがおかしかったからと返ってきた。
一瞬部活中のあの失態を見られたのかと思って顔を顰めたのだが、どうやらそういうわけでもなかったらしい。
けれどたかだか動きを見ただけで分かるルルーシュに純粋に驚いた。
前に裁縫した時に湿布とか見当たらなかったから、ルルーシュは言うだけ言って袋の中身を渡しそのまま帰ろうとするが。
スザクはルルーシュの腕を掴んでそれを阻んだ。
怪我したの背中なんだ、湿布貼ってくれない?
押し付けも必要以上の接触もしないルルーシュのそれに、何となく甘えたくなってそんなことを言う。
ルルーシュは断ることなどしないだろうけど、スザクは返事を聞く前に掴んだ腕をそのままにルルーシュを部屋まで連れてきて背中の手当てをさせ、それからルルーシュを押し倒した。
怪我に障るからと珍しく躊躇したルルーシュを、しかしスザクはどこからか溢れだす衝動に抗い切れずにそのまま半ば無理やりのようにルルーシュを抱いた。
ルルーシュは行為の最中ずっと慎ましやかに、けれど泣き声に近い嬌声を上げていた。
その日からスザクは何故かルルーシュの顔をまともに見れなくなった。
そのくせ夜であれば自由に来ていいとルルーシュに合鍵を渡したのだ。


何故だろうなんて、考えることすらしなかった。







そしてルルーシュは決して寝顔を見せなかった。
セックスをした日は必ずどんなに疲れていてもスザクより遅く寝、スザクより早く起きてきちんと身支度を済ませスザクの朝食を作って帰る。
時には洗濯などの家事をしたり怪我をしたスザクの手当てをしたりして。
スザクの家にルルーシュがいることが多くなってもやはりスザクはルルーシュの寝顔を見ることはなかった。
そのことにスザクが気付いたのは関係を持ってから1年ばかり経った頃のことだったけれど。
でも別にそれがどうということでもないだろうと特に追及することのないまま月日が流れ。


気付けばスザクは高校卒業を迎えていた。



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