+++
なんでもないことのように、それでもこれ以上ない程の感情を込めて伝えるとルルーシュが絶句したのがわかった。
「ずっと、誰よりも、君を愛してるんだ。男として」
「すざ、く・・・?」
「君のためなら何だってできるし、何だってする。君だから騎士になりたいし、ずっと傍に置いてほしいと思う」
「っでも俺は・・・でもっ!」
「わかってる。ルルーシュは僕をそんな風になんて見たことも、考えたこともないだろう。だからいいんだ。ルルーシュはそのままでいい。ただ、僕が傍にいることを、それだけを許してくれれば他には何も望まない」
「そんな、の・・・そんなのは勝手だ・・・」
「うん。僕もそう思うよ。でも仕方ない。それでも君が大切なんだから。激情にかられて君を傷つける、それが出来ないくらいには、君を愛しているから」
ルルーシュは大きく目を見開いたまま何も言わない。
そんな予想通りのルルーシュの反応にスザクは苦笑いをする。
本当は、言うつもりはなかった。
ルルーシュが自分を大切に思ってくれているのは知っていたけど。(何しろそうなるように仕向けたのは自分だ)同時にそういった意味で自分を見ていないことも十分過ぎるほどに知っていたから。だから君を困らせるだけならずっと自分の胸にだけ仕舞っておこう、そう思っていた。君を傷つけないために、君を守るために。その決意をした・・・はずなのに。
結局我慢できずに言ってしまった自分。そして案の定困り果てている目の前の人。
もはやスザクは自嘲気味に笑うしかなかった。
騎士どころか、親友の座も失うかもしれないな・・・。
それでもルルーシュが自分から離れられないのだけが救いか?
自己嫌悪は凄まじいだろうけど、
でも何よりも許せないのは、
ルルーシュをそんな風にしておいてよかったと、
安堵している自分だ。
吐き気がする。
「・・・・・・俺は、」
唐突にルルーシュが話し出す。
スザクはすぐさまルルーシュに意識を向ける。
ルルーシュは俯いていて、でも至近距離にいるスザクにはルルーシュのすべてが見えている。震える唇も、水膜の張った紫水晶も。目尻の紅はきっと、極度の興奮によるもの。
「今まで・・・今の今まで、お前をそんな目で見たことはなかった」
・・・だろうね。
「だから、正直・・・どうしていいか、わからない」
あぁ、君が困ってる。
出来ることなら助けてやりたい。
でもそうさせたのは自分。
「お前は、その、つまり・・・恋愛対象として俺を見てるんだよな?」
頷くことで肯定を示す。
今さら誤魔化したところでルルーシュは納得しない。
そしてスザクも、
一度出してしまったこの気持ちに嘘はつけなかった。
傍にはいたい。困らせたくない。
でも君が欲しい。それが一番ルルーシュを困らせている。
助けたくて、守ってあげたくて、
ルルーシュを窮地に陥らせている。
もう矛盾だらけだ。
「そう、か・・・」
「・・・ルルーシュ?」
声が聞こえて、そこでようやくスザクは意識を完全に戻した。
なにか・・・ルルーシュの様子がおかしい。
いやおかしいというより・・・何か言いたさそうな、逡巡しているような?
心配になってスザクが声を掛ける。だが次の瞬間、まっすぐにこちらを見てきたルルーシュに今度はスザクの方が狼狽してしまう。表情にはまだいくらかの戸惑いが見られるが、それでも何かを決意したかのような・・・
決意?・・・何を?
「返せるか、わからない」
何が?と続ける前にルルーシュが口を開く。
「お前が望むものを、」
「・・・ルルーシュ?」
望む、モノ?
「考えてもみなかったから・・・だから今は返せないんだ。だけど・・・考えてみる」
「!?」
「お前に、俺が、お前が望むものと同じ気持ちで返せるのか、考えてみるから」
「ルル、シュ・・・」
掠れて無様な声。
だけど、仕方無いだろう?
「時間が掛かるかもしれない・・・」
こんな、
「もしかしたら、返せないかもしれない」
こんな予想外な、
「でも、お前の気持ちにこたえてみたい・・・」
想像すらしていなかった、
「そう思うから」
君から、
「だから、それまで・・・待っててくれないか?」
想いを返されるなんて。
「お前を愛せるように、頑張ってみるから」
「うん、」
「頑張るから・・・すざく、」
「うんうんっ、」
僕は堪え切れなくなってルルーシュを抱きしめた。
「ルルーシュ・・・っルル!!」
好き・・・
好き、
大好きなんだ、
愛してる。
誰よりも、何よりも。
君が僕の大切な人なんだ・・・
だから耐えていこうと思った、
隠して隠して、
ルルーシュの隣にいられれば、
それだけでいいと思っていたのに。
でも、
ルルーシュが、ほんの少し、想いの欠片を見せただけで、
もうどうしようもなかった。
無理だと思った。
荒れ狂うようなこの激情、
なんと表したらいい?
言葉に表せないほどのこの想い、
どうしたらいい?
君への想いをせめて心の中でだけ叫んだとしても、もはやこの高みに高まった恋情を押さえきることなどできずに・・・
ただ僕は、
白い、
その頬に、
手を伸ばした。
>>back