スザクとルルーシュでクラブハウスです。
ナナリーはミレイさんのとこにお泊り。
都合が悪くなるといつもお泊り・・・





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キッチンにある椅子。そこに座りながらルルーシュは味見をしているらしいスザクの後ろ姿をじっと見つめていた。どうやら味付けの方はうまくいったようで、スザクは満足気に頷いてから再び鍋に蓋を落とす。煮込み料理なのだろうか?(それにしては火が強いが)白いエプロンがやけに眩しい。ルルーシュはそんなことを思いながら作業が一段落着いた頃を見計らって口を開いた。
「なぁスザク、」
「ダメ」


即答である。
「・・・まだ何も言ってないだろ」
「言いたいことはわかってるよ」
「・・・違ってるかもしれないじゃないか」
「違ってないよ。どうせいつものだろ?」
そう言ってスザクはルルーシュの方を見もせずに確認とも呼べない確認をする。
だがそんな態度を取られてしまうとルルーシュも面白くないわけで・・・
「いや、今回のはいつもと少し違う」
「・・・どんな風に?」
見透かされたのが悔しくて、内容はスザクの言う通り全く同じだったりするのだが今回は少し奮発して豪華特典を付けることにする。
「永久就職付きだ」
「・・・・・・余計にタチが悪いよね」


スザクは言うなりこの上もなくわざとらし気にため息をついてみせた。
そしてそのままこちらを振り向くと、椅子の背凭れに腕を乗せその上に顎をのせる形でスザクを眺めていたルルーシュの元へとやってくる。ルルーシュはそんなスザクをぼんやりと眺めながら、しかし、ルルーシュを見下ろすまで近づいてもまだ止まる気配のないスザクに途端に慌てて逃げようとするのだが、既に両腕を拘束するかのように掴まれ断念した。
そんなルルーシュの様子にスザクは微笑んで、しかし目の奥にはほんの少しの意地悪さを覗かせながらルルーシュの顔の前、それも手の平を広げれば互いの顔にくっついてしまうのではないかという距離まで詰めてルルーシュを覗き込む。
「ねぇ、ルルーシュ」
「・・・なんだ」
「なんでそういうこと言うの?」


スザクは極力微笑みを絶やさないように気をつけながらルルーシュに優しく語りかける。
怒っているわけではないが面白くないのも事実。それでもあくまで穏やかに話しかけるのはルルーシュを怯えさせたくないというその気持ち故に。こう見えてルルーシュは心を許した人間からの言葉に滅法弱い。見ず知らずの人間の言葉であれば何を言われても嘲笑して済ませることの出来るこの皇子様は、しかし、枢木スザクの言葉にはあまりに無防備であった。どんな些細なことにもこれ以上ないというほどに敏感に反応してくれてしまうのだ。それは慈しみに溢れた愛情の言葉であっても憎しみや怒りにのせられた負の言葉であっても同じことで。それこそちょっとした、何気ない言葉であっても普通の人間の何倍もの感受性でもって受け取ってしまう。ルルーシュはそういう人だった。懐に入れたものに自分のすべてを明け渡してしまうような、そんな愛し方をする人。だからこそ、ルルーシュの性質をそれこそ当人以上に理解し、また、彼の中の自分の位置を把握しきっているスザクは、ルルーシュと話す時は極力穏やかに言葉を紡ぐようにしていた。
まぁそんな、彼にとって絶大な影響力を持っている自分が本気になってルルーシュに攻め入った時に、ルルーシュがどんな風になるのか、どれほど甘美な色を見せてくれるのかは考えただけでも大いなる魅力を秘めているのだが。でも出来れば・・・、そう、出来ることなら。穏やかに、優しく愛してあげたかった。激しく、何もかもを奪い尽くしてしまうような愛ではなく、生まれてからずっと傷ついて生きてきたルルーシュを、真綿で包むような、そんな慈しみの愛でもって包んであげたかった。だからきっと自分がそれを実行に移す日はやってこないのだろう。


「・・・それが最善だと思うからだ」
深い思考の海に浸っていたスザクは、突然発せられたルルーシュの言葉によって現実に戻された。遅れて、それが先の自分に対する返答であることに気付く。言葉の意味を素早く理解したスザクは品定めをするかのように目を細めてルルーシュを見る。視線の先ではルルーシュが瞼を伏せがちに長い睫の陰影を頬に落としていた。後ろめたいことがある時のルルーシュの癖だ。睫が微かに震えている。
なんというか、相変わらず可愛らしい仕草をするものだ、と少し嘆息してしまう。
しかし言ってることはかなり戴けない。それがどんなに可愛らしくてスザクのストライクゾーンを滅多打ちの仕草で紡がれた言葉であったとしても世の中には言って良いことと悪いことがあるのだ。そして今回のは間違いなく後者。
だから、


「本当に?」
優しく優しく、紡いでやるのだ。


「本当に、そう思ってるの?」


逃げを許さないその言葉で、
すべてを絡めとるかのように、
優しく追い詰めてやる。


そうすれば、


「っ・・・」


その責めにルルーシュは耐えられない。


ルルーシュは、伏せていた瞼を押し上げて恐る恐るスザクへと視線を揃える。
優しくされればその誘惑にルルーシュは勝てないのだ。
傷つけられるとわかっていても、ルルーシュはスザクを見ずにはいられなかった。






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